■いつかはイレブン■
-- スポーツクライミング・テクニックメモ --
石原 佳典
1997年 8月
1995年11月
1995年 7月
1995年 5月
改訂版 1995年 3月
初版 1995年 2月
【ムーブテクニック編】
(1)インエッジ
足の内側でフットフォールドにたつこと。
(2)アウトエッジ
足の外側でフットフォールドにたつこと。
(3)正対
クライミングの一番基本の体勢。壁に正面を向け、足は両足ともインエッジに
する。壁にとりつくと自然にこの体勢になる。90°以下の壁ではほとんどこの
体勢でのぼる。傾斜がきつくなるに従い、腕への負担が増大する。90°以上の壁
では全てこの体勢のまま登るにはかなりの持久力が必要となる。
(4)重心移動
正対と同様にクライミングの基本動作。あげた足の方に重心を移して
体を引きあげる。基本中の基本だが奥の非常に深いムーブ。上達すれば、
腰の高さに足をあげ、フットホールドを巻き込むようにして、重心を移し
そこに乗り込む動作も可能となる。
\o_
_o/ _o/ |
| → | → |
| |_ /\,
,/\ ,/
重心は左 右足を上げる 右足に重心を移動
(5)キョン足(膝落とし)
下図のようにひざを曲げ、かかとを上方にむけた体勢。90°以上の壁で、非常に
有効な技術。さまざまに応用がきき、身長の低い人、力のないひとには特に有効な
テクニック。一般的に男性より身長が低く、力がなく、体の柔らかい女性クライマ
ーは上手にこの技を使う人が多い。
\o_/
, |_
\/ \
(6)対角線の原則(カウンターバランス)
クライミングは「静→動→静」の繰り返しである。静の状態の時に手足の4つとも
安定したホールドにある場合は問題がないが、いつもそうなっているとは限らない。
片手片足で体の安定を保つ場合、対角線の手と足でホールドを保持すると安定する
場合が多く、次の動作にも移りやすい。ハンドホールドの力をかける方向が
内側の場合は足をアウトエッジにするとより安定し、力の消耗を軽減できる。
, ←手が右なら
\o/ <O_/'← 左足の方向にホールドを引いている
| \_
/\_ _/ \
' '
↑ ↑
足は左 足をアウトエッジにして体を右に開くと楽になる
(7)体(腰)を壁から離す
90°以下の壁での基本姿勢。傾斜の緩い壁に貼りつくと相対的に傾斜を増すし、
フットホールドのききも悪くなり、しかも、次のフットホールドが見えなくなる。
初心者はとくに体を壁から離すのを意識して登ると上達が早くなる。ある程度、
登り込めば自然に体を壁から離す体勢をとるように普通はなる。
\_O \ O
\\ \ /|
\\ \ |
\| \|
\ \
壁に貼りつくと滑べし、 真下に重心がかかるので滑べらないし、
下も見えない 次に足をおく位置も確認できる
(8)体(腰)を壁に入れる
体を壁から離して登るのはクライミングの基本であるが、90°以上の壁では
体(腰)を壁に入れる方が安定する時もある。下図1のように体を離した体勢では
足と腰の位置がずれ、重心は腰になってしまう。腰にかかった体重を手で耐えなく
てはならない。つまり、足に20%、腰に80%という比率で重心が分散した場合
腰の80%は手でささえなくてはならない。したがって、下図2のように体(腰)を
壁に入れて、足と腰の重心の比率を変えることにより手の負担を軽減させる。クリ
ップする時に体を横に向けて腰を壁に入れ体を安定させる場合や正対から次のホール
ドを取るときに腰を入れて手の届く範囲を伸ばす場合など、いろいろな使い方がある
。ただし、適切でないところでこれをやると逆効果になってしまう。
/\ /\
/\O /\O
/ | / /
/ / / <
|_,/ |_|
/ ↑ /
/ ↑ 腰 / ↑
足 足
腰
図1 図2
(9)足きり、足ぶら(片方の足だけに重心をかける方法)
両足でフットホールドに立ち込んだ時に左右の足の位置の関係でバランスが悪い
場合は片側の足を完全にホールドから外し、一本の足だけでホールドにのって
いる方が 安定することがある。その場合、フットホールドにのっている足は
膝を曲げ、お尻を落して、その足の真上に来るようする。壁の傾斜がきつい場合は
腰を壁の方に入れるとなお安定する。人工壁では多くのホールドが突起している
ので、この技を使えるところが多い。
__o_/ ,__o__,
_|/|, -> |
| / >
' | ' ←こちらの足に座り込む
バランスが悪い状態 ↑
こちらは足ブラ
↓拡大図
__ _
| | | |
_______||____| |
|______ ____|
| |
| |____
/ ________)
/ / /_/----
| | === ←ここに座り込むようにのる
| |
/_/
(10)あと少しで届かなかったホールドは見ないで取れ
あと3、4センチでホールドに届かなかった場合はそのホールドを取りいく動作の
時にそのホールドを見ないで正面を見たまま、もしくはホルードとは反対の方向に
顔を向けて取りいく。顔を上げてホールドを見たままでは体が後ろにのけぞる体勢
なるため、ホールドまでの距離が後ろにのけぞった分だけ遠くなる。その場合は
最初にホールドの位置を十分見定めておいて、ホルードを見ないで手を伸ばす。
+ +,
|, ←体が外傾する分 ||
|\ 届かない ||
|_\o |_o
| / | | ←壁に貼りつくようにして
| / | | ホールドを取りにいくと届く
|| ||
|| ||
|' |'
(11)足を壁にあてる
一本足でバランスが悪い時に浮いてる足をつかって何とかバランスを保ち、その場を
ごまかし、次のムーブに移る技術。ただ、無理にこの技術を使わざるを得ない状況に
わざわざ自分からなっている場合が多々ある。そのような場合はこの技の必要のない
手順で登れるようになった方が賢い。
|
| \o/ \o/
|,__| ,__|_
| \ |
| ‾ ‾
カンテに足をつっぱると楽になる 左足をおく場所がないときに足を壁に
(これは結構経験があるはず) あててバランスをとり、姿勢を保持する
(あてた後に左足をひねったりして、
バランスの取れる体勢をみつけるのが鍵)
(12)クロス
次のハンドホールドを取りに行く動作で左右の腕が交差する動作をクロスと呼ぶ。
手を交差させるのは自然な動作ではないので、この動作を完了させるには様々な
動作を組み合わせることになる。
| \/
\o| /o|
|_ \ →体をこの方向に弓のようにそらせる
/ \ /| と有効な場合もある
/ / /
この状態ではまだ、右手で体を支えている
(13)体を返す
クロスからの連続になる場合が多い。この体を返す部分もクロスのなかにいれても
良いかも知れない。(a)(b)は上で説明したクロス。左手で掴んだホールドの向きが
右斜め下の場合は、その方向に左手が効くように右足を軸にして体を回し、左の方を
向くようにする(c)。完全に左に向いたら、右足に体重を預け、対角線の原則を保持
して体を安定させる。人工壁ではこの動作がかなり出てくるのでマスターしておく
とかなり有効。習得方法としては、ボルダーの壁でこの一連の動作を設定して何度も
繰り返して体に覚えさせるのがよい。(ボルダーでも結構でてくるムーブなので、
既に 登ったボルダーにこの部分があったら、そこだけ使って練習する)
/ \/ ,
<O_/' O/_, /o| \O>
\ \_ \ /
_/ \ / \ / \ /\_
' / ` / | '
'
(a) (b) (c) (d)
(14)いざとなったら、爪先を伸ばすんだ!
「(10)あと少しで届かなかったホールドは見ないで取れ」の技を使っても届かなか
った場合は足を棒のように伸ばし、爪先を思いきり立てる。
(15)突っ張り棒作戦
前傾壁で壁にそって体を捻って横を向き、足をつかって突っ張り棒のように壁に
張り付き、重力のかかる方向を分散させる。かぶりのつよい場所で腕の力をセーブする
ための方法。基本姿勢は(6)「対角線の原則」で、下図のように膝をおった足をアウト
エッジにして、逆の足はホールドの横を押し付ける。つまり、身体張力をつかい、ホー
ルドとホールドの間に挟まるようにする。自然壁よりもホールドが突き出ている人工壁
の方がこのテクニックが有効。さらにルートよりもボルダーの壁の方がこの技の効果が
発揮できる所が多い。
,__o \ \
_/> o/\ o|\
,/ \, \ \ | \
|←力の方向→| \ \ \ \
\ \ \, \
横から見るとこんな感じ お尻が壁から離れると重し、つっぱれない
(16)割れ目に足をねじ込み体を固定する
クラックや下図のようにでぱった形状のホールドがあったら、足をねじ込ませて
壁に体を固定して、手の負担を軽減したり、レストしたりする。
OOOOOOOOOOOOOOOOOOOO 壁側 o_
OOO ←ここにくぼみがある <|_
OOOOOO O\/ \
↑
ホールドを上から見た図 キョンの体制で左足をねじ込み、体は右を向け
右に右足をつぱっり、身体張力を使って体を固
定して、手の負担を減らす
(17)ヒールフック
踵をホールドに引っかける足技。使い方はいろいろあるが、カンテではバランスを保
ち、ルーフでは力をセーブできるので非常に有効な方法。ルーフでのヒールフックのこ
つは踵を引っかけたら、体重を思い切って、引っかけた足にかける。その時にホールド
を持っている手は伸ばしておくことも忘れない。
\ 手も伸ばす
\ ↓ _
\__/_/__
\/_/ ←引っかけた足も伸ばして、体重を載せる
o
(18)キョン足で体をあげるムーブ
ホールドの配置が下図のAからEのようになっていて、しかも、ホールドBが飛び出
ているタイプのホールドの場合に、図1の状態からは以下のようなムーブが有効。
体を返すムーブを行い、左側に体を向けたら、Bにある右足の膝を下に向けてキョン
の足の形を作りながら、膝を下に回す力を利用して腰を上げ、右手でホールドEを
取りに行く。この動作を連続して行うとスムーズな動きとなり、力の節約となる。
E E
左手D D /右手を伸ばしてEをとる
| 右手 左手\O/
| /C 体の向き 体の向き |C
O/ → ← /
|____ B / \/B
/ 右足 左足/ 右足をキョン
左足 /
A A
図1 図2
(19)ハングの抜けかた(その1)
ハングの抜け口に突き出たホールドがある場合はそのホールドを利用する。一例と
しては、下図のように足をそのホールドにおき、手で自分の体を引き上げると同時に
右足のホールドにのり込む、完全に体重が移ったら、左足をきって、右足だけになる
と体が安定する。
ホールドの形状 壁での位置 \o_/
| | o/ _|_
|OOOOOO |_ ___<\_/\o__ ==> __/_o______
|OOOO / \ ↑ /
|O / /乗り込む 左は足ブラ
/←ハング
横から 正面から
(20)バランスの保ち方(その1)
ホールドを掴んでいる手と足が同じ側の場合はバランスが悪く、壁から体がはがれ
そうになる。その場合は反対側の足を下図のように流せば、バランスを保つことが
できる。割と高等テクニック。
左手で体を支えている→\ /←右手は次のホールドをとりに行く
\O/
左足はホールドにのっている→ ,/\--^
/
/ ←右足は左方向に流している
(21)レスト:こまめに腕を振ろう
片手が放せる大きなホールドでは次の動作に移る前に腕を振って、少しでも腕の疲
労を回復させながら登る。パンプしてしまってからでは回復しないので、できるだけ
パンプしないようにまめに腕を振って血液の循環をよくして、腕に酸素を供給する。
ルートの簡単なところはどんどん行かないで、細めに腕を振ったり、レストしたりし
ゆっくり行くのがコツ。
(22)レスト:意識的に呼吸しよう
少しでも力を持続させるには意識的に呼吸して酸素を供給するとよい。特に核心前
のレストポイントでは呼吸と同時に気もためてから^^)、登ると不思議と登れてしまう。
(23)レスト:腕に血を行き渡らせる
ルーフの下のように被ったところのレストポイントのホールドが大きい時は下図
のように体をのけぞらして心臓より下に肩が来るようにする。そうすると腕全体に
血が流れていくのがわかる。この動作で、最後の踏ん張りが不思議と効く。
|
|
\,___
/__∧\
o / \,/
| /
'
(24)レスト:膝ロック
下図のように壁の浅いルーフ状のところでは、膝をかまして、レストできることが
ある。ルーフ越えはある程度力を必要とするので、膝ロックをしてレストすることは
非常に有効である。
|
|__O
__| /
/_/\/
| /
|_/
【ルート攻略法編】
(1)ルートのグレード
グレーディングシステムにはそれなりの意味があります。日本の場合、ルートは
アメリカ風、ボルダーはフランス風のグレーディングシステムを採用していている。
グレードは上達するための指標でもあり目標になる。5.7, 5.8, 5.9 では細分化さ
れず、5.10から 10a, 10b, 10c, 10dと細分化されている。したがって、一部天才を
除き、5.7を登れた人がつぎに5.8に挑戦するのは妥当な行動ですが、5.10aを登れた
人が5.11aを次に挑戦するのは無謀である。5.10から、細分化されているのはそれな
りの意味がある。やはり、一歩一歩確実に階段を上がっていく方が最終的には上達
が早いでしょう。5.10bくらいのルートしかレッドポイントしてないのに5.11aに
挑戦しても、50回もトライすれば登れるでしょう。しかし、それでは10c, 10dの
ルートをやることで身につけるはずだった技や経験が蓄積されず、2本目の11aも
初めの11aと同じくらい回数がかかるでしょう。
(2)限界グレード引くことの1はオンサイトグレードの法則
上達するには自分の現状を正しく把握しておくとよい。限界(最高)グレード、
オンサイトググレードを把握しておきましょう。レッドポイントした一番難しい
グレード、オンサイトグレードはオンサイトした一番難しいグレード。個人差は
あるが、限界グレードからワングレード下(12aなら11a)くらいがオンサイトグ
レードになる。ただし、11の前半まで、限界グレードとオンサイトグレードが一
緒の人も結構いるので、誰もがこの法則に当てはまる訳ではありませんが大体の
目安にはなるでしょう。
(3)自分のグレードを把握してルートを選ぼう
上記2項目をわざわざ挙げたのは、適切なルートに挑戦することが早く上達するため
のコツだからだ。例えば、A、B、Cと3つのルートがあって、Aではキョン足、Bでは
キョンムーブ、Cではキョンムーブからクロスと体の返し、が必要な時に、キョン足も
出来ない人がいきなりルートCに取りついて敗退しつづけるのと、Aから順番に挑戦し
て、ひとつひとつムーブをマスターしてから、最後にCに挑戦するのでは同じ10回
のトライの中で身につける技や経験がまったく違ってくる。
(4)ペース配分に頭を使おう
うまくなるにはたくさんルートを登ることにつきる。しかし、一日にトライできる
ルート数に限度がある。十代後半から二十代前半くらいなら、がむしゃらに何度
もトライできるし、それなりの成果が得られるでしょう。(質より量でカバーできる)
しかし、全盛期を過ぎてしまった人が彼らと同じようことをしていては彼らにかな
わないでしょう。体力がない分は知恵で補える。そのために一日にトライするルー
トの数、グレード、休息の仕方を自分なりに工夫する。自分が一番力をだせる時を
経験から覚えておき、それを念頭において一日のスケジュールを組み立てるといい。
レッドポイントしたいルートがある場合は一番力が出せるときにそのルートを
やるようにメニューをつくる。挑戦の前に十分に休養をとることも重要である。
トレーニングとしてやる場合は休養をあまりとらずに連続してルートをやるという
方法もある。
人工壁でのメニュー
例1) 限界グレード12aのクライマー
グレード 時刻
1)A 10b ウォーミングアップ
休息1時間
2)B 11c 初トライ(ワンテン)
休息1時間
3)B 11c レッドポイント狙い(成功)
休息1時間
4)C 11d ムーブ解決のトライ
休息1時間
5)D 11d ルーフ練習のためのトライ
休息1時間
6)E 11a フラッシング狙い(成功)
休息なし
7)F 10c トレーニング
休息なし
8)A 10b トレーニング
例2)限界グレード12dのクライマー
1)A 11a ウォーミングアップ
休息30分
2)B 12b/c 前の週からの続きでレッドポイント狙い(ワンテン)
休息1時間
3)B 12b/c レッドポイント狙い(ワンテン)
休息1時間
4)B 12b/c レッドポイント狙い(成功)
休息1時間
5)C 12c/d 新しい課題の探り(ハングドック)
休息1時間
6)C 12c/d ムーブ解決のトライ
休息30分
7)D 12a トレーニング(既にレッドポイントしたルート)
休息なし
8)E 11d トレーニング(既にレッドポイントしたルート)
休息なし
9)A 11a トレーニング
(5)ムーブを覚えれないなら、記録しよう
グレードが上がるにつれて、最低でも核心の手順を覚えてないといつもそこで
落ちてしまい、いつまでもレッドポイントできなくなってくる。初めのうちは
手順をなかなか覚えれないかもしれない。その場合は紙に書いてでも手順を覚
えるとよい。3、4手なら普通は紙に書かなくても覚えれるでしょう。
[Copyright (c) 1997 by Yoshinori Ishihara]