ペダーセンを個人輸入してみた






今、静かなブームを呼んでいるペダーセン自転車を個人輸入しました。
…いや、すいません、ブームなんてありません。これだけミニベロや折り畳み小径車が出回っているのに、殆どガン無視され続けています。

ともかく、その際に個人輸入、しかもフレームのみという怖いもの知らずとは恐ろしいなぁという、結果的には冒険をしでかしてしまいました。この過ちを繰り返さないためにも、その顛末をここに記したいと思います。



出会い
問い合わせ
発注と支払い
税関
餅は餅屋
完成
ペダーセン自転車とは




出会い編


折りたたみ自転車&スモールバイク(2008年、辰巳出版)より

まだ前の会社に居る頃。
すっかりと某漫画に染まって、自転車な日々を送っていた。入門用ロードから始まって、DAHONのMu、シクロクロス、台湾ブロンプトン、英国ブロンプトン、(壊れた)モールトン…と、6畳一間の独身寮に入りきらない(結果、端から売り飛ばすはめになったが…)ばかりの自転車を買っていた。よくやるなぁと思いながらも、変わった自転車を手にしたいという欲求に素直に従っていた。

そんな中、辰巳出版の「折りたたみ自転車&スモールバイク(2008年版)」の中に、ケッタイな形の自転車を発見した。それがペダーセン自転車である。
その変な形とハンモッグサドルという、変わった物好きのハートを直撃貫通間違いないユニークな特徴は、アメリカンなメニューの如く、心を鷲掴みにされてしまった。

ただ、残念なことに値段が書かれていない。恐らくは高いのでとても買えるものではないとは思いつつも、諦めもつかない。
Webで調べてみるも、問合せ先に書かれているグリーンスタイルにもミソノイサイクルにも載っていない。Googleで調べると、このKemperというのは自転車工房の名前で、ドイツで生産しているということはわかったものの、さすがに個人輸入するわけにもいかない。

半ば諦めつつも、偶にWebで調べつつ、24インチなら通販で売られていることも知りはしたものの、20万円前後とお高いものであることも判明。しかしどうしても一目ぼれした20インチのが欲しいなぁと思いながら、月日は過ぎていった。


その内転職して海を渡り、新しい職場で胃に穴の開きそうな日々を送っていた時、大学時代の先輩が円高に物を言わせてブロンプトンを個人輸入した話を聞いた。
普通15万円はするM3Lが10万円前後と、うわーと心底羨ましかったのだが、その時これまでくすぶっていたペダーソンへの欲望が、むくむくと湧き上がって来たのである。
ただ、車の買い替えや転職でまたも貯金残高が恐ろしい事になっていたため、しばらくは待たざるを得なかった。





問い合わせ

年も明けた頃、多少とも貯金に余裕が出てきたことと、また精神的に不安定だったこともあり、勢いでKemperに直接問い合わせのメールを出してしまう。ドイツなので、Google翻訳で英語をドイツ語に翻訳しつつ、簡単な問い合わせの文章を作り、また念のために英語の文章も併記しておいた。

すると、しばらくして英語のメールが届いた。
それによると、日本からの直接の注文も対応可能で、20インチなら、以下のスペックで2400ユーロ、送料は250ユーロくらいだと書かれていた。
・ALFINE 8スピード
・ALFINE ハブダイナモ
・Vブレーキ
・シュワルベビッグアップル
・ブルックスの皮サドル

2650ユーロ、約30万円。
勢いで見積もりを取ってみたものの、いざ30万円という具体的な数字を目の前にすると足がすくんだ。しかし、丁度精神的にも不安定だった為、次なる妥協策に出た。

「フレームと特殊なサドル等だけ、というのでも構いませんか?」

重量を少しでも軽くして送料を多少ともケチろう、それにパーツ類も日本で買った方が安いのではないか、それにとりあえず一度に支払う金額を下げないと正気に耐えないという、チキンまっしぐらな理由からであった。

それと同時に、駄目元でミソノイサイクルにも電話で問い合わせてみた。
すると、フレームだけなら224,700円、油圧ブレーキの完成車なら399,000円(当時の値段)という回答。うぅっ、日本にもあったんだ。

そうこうする内にドイツから回答。
フレームにフェンダー、ハンドル、サドル、送料込みで1659ユーロでどうだ、というものだった。約19万円。
手続きが面倒だったり、リスクを考えるとちょっとあれな所もあったが、ともかく人生初の個人輸入に挑戦する事にした。






発注と支払い

まずは、こちらの身長、股下長さ、体重、フレームの色、サドルの色を伝え、正式な請求書を作ってもらった。
それに従って代金を振り込むのだがクレジットカードに対応しておらず、ドイツの地方銀行に直接代金を振り込まなければならない。国際送金というやつである。

日本からだと、銀行か郵便局から行えるが、ケチなので安い郵便局を選択。
窓口で用紙をもらうのだが、これが曲者だった。


(これは後日の送料の追加分の振込み)

請求書には、銀行口座番号としてIBANコード(英数字22桁)と、銀行名としてSWIFT-BICコードが書かれていたのだが、そうした説明が用紙に無い。
またKemper工房の住所も、日本のそれと大きく違い、しかも「;」まで入っていて本当に住所なのか良くわからない。更に、相手の銀行の住所を書く欄すらある。
そして、窓口の人が国際送金の手続きを殆ど知らず、聞いてもわからなかった。
仕方ないので、一度撤退。

Web等で調べ直して、ようやく記述する。
口座番号のところにIBANコードを、銀行コードのところにSWIFT-BICコードを記入。銀行住所はWebで調べてそのまま記入。これも記号の変な使い方があり迷うが、そのまま記入する。
送金目的は明記。
他の注意すべき点は、国によって振込み代金に+αを支払わなければならないということである。ドイツの場合、向こうの銀行の手数料が必要で、これがだいたい5ユーロとWebに書かれていた。ただこれも確かではないのだが、面倒なので5ユーロにしておいた。
それからもう一つは、差出人住所の記述は、提示する身分証明書の記述に合わせておかなければならないということである。

窓口に用紙を出して、計算してもらう。だいたい、その日のユーロレートに1円くらい上乗せして日本円に換算され、更に手数料として2500円を要求される。

手続き後、だいたい5日前後で向こうの銀行に入金される。
本当、クレジットカードって素晴らしい。アマゾンって素晴らしい。


しばらくして、「代金受け取った。製作は1ヶ月くらいかかる。出来たらまた連絡する」とメールが来た。
そして1ヵ月後くらいに、「出来上がった。月曜日に発送するんだけど、送料が思ったよりもかかってしまったので追加分を振り込んでくれ」というメールが来た。仕方なく追加分を振り込む。





税関

発送後に長期出張が入り、荷物を受け取れない状態になってしまったのだが、日本の勤め先の人から連絡が来た。
「名古屋の税関から問い合わせが来ている。品物の内容、更に税金と税関手数料について確認を取りたいと。」

その時になって、初めてそうしたものが必要だということに気付いた。
そうだよ、消費税あるじゃん。通関手数料も。

しっかりとしたもので発送された品物には請求書が添付されており、それに基いて税金が決定される。しかも送料にまで。幸いなことに、2回目の追加送料の請求書は添付されていなかった為、その分(ほんの雀の涙程度だが)は回避できた。
合わせて約18000円。鼻血が出そうになった。


ともかく、こっちに帰ってきて、品物を受け取る。
丁寧に梱包された白いフレームと、注文した部品類。
後は、これに足らない部品を加えて、完成させなければならない。





餅は餅屋


部品の調達と組み立て。

ALFINEの11段を合わせたいと思っていた。ただ昨年末の発売からずっと品薄状態で、諦めなければならないかと思っていたら、フレームが届いた頃からボツボツと出回り始めるようになった。近くの自転車屋で組んでもらおうかと思って聞いてみたら、注文から組み立てで1ヶ月くらいかかるとのことで諦める。丁度ヤフオクでリムに組んだものがあったので落としておく。

が、これがまず第一の失敗だった。このリムは1.50-1.75の比較的細いリムで、一方のKemperの方は、標準でビッグアップル(2.0)を想定。その為にVブレーキのピボット(台座)の間隔が約95mmと幅広に作られており、そのままではブレーキシューがリムに届かない。が、そこはブレーキシューの調節用ワッシャーをどちらも内側に取り付ける裏技で乗り切る。いや、危険なので真似してはいけません。

またギアを組み立てる際に、スプロケットを抑えるスナップリングを嵌めなければならないのだが、これが工具が無いととても嵌められない代物であった。ただホームセンターレベルではこの専用工具は売っておらず、仕方なく穴有スナップリング用の工具を購入し、これで無理やりはめ込む。

またギアのケーブルも長さを調節したかったのだが、どうも特殊な工具等が必要らしく、購入した際に既に向こうさんで既に長さを調節してあった。一度外して調節し直そうかとも考えたが、ここまで苦戦続きな状態の中で藪をつついて蛇を出しても仕方ないので、余ったケーブルはフレームの内側で巻いておく事にする。

クランクはALFINEで揃えようと思ったのだが、ネットショップはどこも在庫無し。と思っていると、中古のパーツ屋で1つ未使用品があったので注文。新品より2000円くらい安く買えたのでホクホクだったのだが、届いてみたらBBが付いてなかった。結局のところ新品とあまり値段が変わらなくなった。

後輪をフレームに取り付けてみると、ギアの周り止め台座が標準で付いているものではフレームエンドの形状と合わない事が判明する。これだけの為に送料500円と振込み手数料210円を支払う羽目に。

フレームと一緒に注文した泥除け(フェンダー)も、スチール製の手作りで品物は良かったのだが、ステーや取り付け用のボルト類が一切付いていなかった。仕方なくこれも本所工房のものを注文。

Vブレーキやブレーキバー、それに前輪はモールトンのものを流用するのだが、ブレーキワイヤーは新調しなければならない。近くのホームセンターで購入した1000円の安物ワイヤーカッターは一撃で刃こぼれ。別途3500円のごっつい奴を買い直す羽目になる。


ともかく、やっていて餅は餅屋だと実感させられた。微調整等も考えると、矢張り多少高くともプロに任せておくべきである。プロの目で、最も適切なメカを選択し、専用の工具を使い、プロの腕で組んでくれることだろう。





完成



散々苦労させられたものの、それなりに上手くまとまった。


ただ、値段の方は、

フレーム他合計:225,525円
その他の部品合計:79,390円
今回追加した工具類:10,503円

総計:315,418円


一方、ミソノイサイクルさんの提示価格(2011年1月頃)
完成車(マグラブレーキモデル?):399,000円
フレームのみ:224,700円

Kemperさんとこの完成車:328,300円


苦労した割には、何とも情けない結果に。


結論としては:

・しっかりしたものを持ちたいのであれば、素人は迷わずにプロに任せて組んでもらうべきである
・個人輸入には色々と手数料やらリスクやらかかるので、余程でなければお薦めできない
・ALFINEの11段までは不要だった

の3点だろうか。












ペダーセン自転車とは


Wikiなどを見ると、19世紀末頃に発明家ミヒャエル・ペダーセンさんが発明した自転車で、最初はハンモック式のサドルを発明し、それに見合う自転車を設計したのが、このペダーソン自転車のようだ。
このハンモッグ式サドルというのは、革製のサドルよりもサスペンションの効いたサドルを、より軽くすることができるというのが売りだったらしい。自転車の方も、当時ブームだったトラス式構造を利用して車体を軽くしようとしたようである。そこまで乗り心地に心血を注いだということから当時の道路事情が相当に悪かった事が伺えるが、もしかすると実はペダーソンさんは痔だったのではないかとも邪推できる。

現在もヨーロッパの幾つかの工房では、このペダーセン自転車を製作し続けているようであり、モールトン程ではないにしてもファンもそれなりに多いらしい。

ともかく、自転車としての大きな特徴は乗車した際の姿勢で、サドルに対して上体が垂直な位置に来るようになっている。手に負担が掛からないので長時間乗っていても手がしびれるようなことにはならないが、ただ全ての体重が尻に掛かるため、折角のハンモック効果がプラマイゼロになってしまっている。しかもこの姿勢だと正面面積が大きくなるので、向かい風だと空気抵抗でペダルがとたんに重くなる。更にサドルがハンモックでぶらぶらしているのでペダルをあまり強く漕げない。
自転車の出来としてはモールトンの方が断然に上であろうし、尻の具合や乗り心地だけを見ればサスペンション付きのマウンテンバイクの方が良いだろう。乗ったことは無いがカーボンフレームやチタンフレームの自転車はサスペンションなど無くとも乗り良いらしい。そうしたものと比較すると、矢張りペダーセン自転車は19世紀末のデザインの自転車であり、21世紀の最新技術を注いだ自転車にはとても勝てない。

しかしその反面、19世紀末の自転車の良さもある。
上体が垂直に伸びるので頭の位置が普通の自転車よりも高くなり、周囲を見渡しやすい。そして強く踏み込める体勢でもなく、ただチンタラ、ダラダラとその辺を走り回るのに丁度良い。タイヤも空気圧を少なめにしておけば、尻への突き上げも大分緩和される。クロモリの細いパイプを多用したフレーム構造も、衝撃を緩和するのに一役買っているのだろう(推測)。

だったらママチャリでいいじゃん、昔の20インチのママチャリをレストアすりゃいいじゃんと言われてしまいそうだが、しかし何よりも、このケッタイでインパクトのある見た目が素晴らしいのである。
手間のかかる旧車をわざわざ乗る人と同じだと例えると怒られるかもしれないが、しかし自転車の趣味を持つ人の殆どが、見た目を特に気にしているのではなかろうか。そうした面では、稀に見る名(迷)車なのではないかと思う。







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