ヴィネットに酔って候。


ヴィネットとは?

最近はミニスケールAFVを作る場合はこのヴィネットというまとめ方に偏っている作者ですが、このヴィネットに
ついて、私が感じているものを整理してみたいと思います。

AFVのアプローチで大きく分けると、車両のプロポーションやディティールに徹底的にこだわる単品作品派と、ジ
オラマといった情景の再現にこだわる情景模型派に大きく分類できると思います。これまたアプローチに優劣は無
いのはもちろん、単品模型として徹底的に手を加えた車両をジオラマに使うこともあれば、情景的エッセンスが詰
め込まれた単品模型もあるわけで、垣根をハッキリさせられないところもありますが、ことヴィネットにおいては
どう説明すればいいだろうかと疑問に思いました。「小さな情景」とか「フィギアが物語る情景」とかどちらかと
いうと情景模型の一部的なニュアンスを一般論的に感じますが、どうもしっくりとこないのですよね・・・・・(笑)。
そんな思いを私なりにまとめた一言が「ベースを含めた単品作品」です(笑)。 結局説明がいりますが(汗)、尾
ひれの部分を整理しますと、まずベース(台座)となるモノが必須であること。このことにより制限された空間が作
られ、その中に情景や表情といった空間演出の要素が発生する訳です。そしてその後の単品作品にかかるところがポ
イントなんですが、ベースも含めて一つの単品作品となるような纏まりを作ることを意図しています。まとめること
にテーマが含まれているといった感じなんですが、単品作品という部分が「一体化したまとまり」「一つに完結され
た世界」というニュアンスなのがミソなんです。ではでは、その辺についていろいろ膨らましてみたので箇条にご紹
介します。


凝縮という空間演出。

では、情景模型(ジオラマ)とは何が違うのかという部分ですが、ベースの大小といった大きさの制約で単純にわけ
るのでは無く、「凝縮」といった空間の使い方ポイントがあるのではと感じています。
具体的に言うと、情景模型(ジオラマ)は「空間の切り取り」つまり、とある情景設定をそのまま切り取った空間を
表現するものと感じています。そこには自然な配置がやリアルな空間演出があり、テーマや物語や感情といった様々
な要素が表現されています、その方向はどちらかというと写実的で現実的なアプローチが優先されていて、その完成
度がその切り取ったベースから見えない情景をも醸し出す要素にもなっていると思いました。
対してヴィネットはテーマや物語や感情といった物を表現する事は同じながらも、完結した世界、限られた空間の演
出を優先しますので、空間を含めた様々な要素の凝縮が展開されます。切り取るというよりは作為的に削ったり、
詰め込む様な感覚ですね。よって、無駄を省く削除や強調、象徴的な不自然でオーバーな演出や配置も含まれます、
どちらかと空間の閉鎖と完結があり、凝縮の反動でテーマや物語といった表現物を強調する傾向があるかと・・。

極端に例えるなら、カメラ撮影で情景を写そうとアングルを探るカメラマンの動きがジオラマ的で、決まったアング
ルに如何にモデルを配置するかの絞り込みがヴィネット的な思考ということです。
もちろん、これも境界線がハッキリあるわけでなく、限り無く小さく切り取った写実的ながら完結したヴィネットも
あれば、凝縮や削除を大きく取り入れた象徴的なジオラマもあるわけで、とりあえず、そういった傾向があるといっ
た程度の概念になっちゃいます。しかし、こういった発想や着眼を持って取り組むことで、有効な使い分けや表現の
コントロールには役立つのではと感じています。

余談ではありますが、私はミニスケールでヴィネットを作るのですが、このサイズだから作り易いといった直感的な
感覚があります。もちろん、ヴィネットという表現方法の概念は基本的に模型の縮尺は関係無いと思っています。し
かし、別の観点から見れば、ヒストリカルフィギアや後に触れる食玩ヴィネットや根付、といった物の様に至近距離
で視界に収まる手の平サイズなものが多いという事実が浮上します。人間が本能的に求めるミニチュアサイズと言う
のがあると仮説すればこれまたミニスケールや1/144AFV・飛行機、1/700艦船などの小さな模型とのヴィネット
との関係の深さはあるようにも感じます。


立体的なディスプレイ。

ベースも含めて単品模型の如く一つの纏まりとして完結させる、我ながら単品作品という着眼はなかなか(笑)と思
う理由は他にもあります。それはディスプレイや展示といった部分でも、模型ならではの立体的な表現、360度の鑑
賞を意識したアプローチにあると思います。単品で模型を作る際は、当たり前ながら鑑賞角度を固定して見える部分
だけを作るといった作り方ではなく、立体的な鑑賞を前提にプロポーションやディティールを色んな角度でチェック
して作っていきます。それが情景(ジオラマ)になると正面や見る角度を限定した演出を作る場合が増えてきます。
最たる例では建物や壁なんかのオブジェなんかで死角ができる場合などです。もちろん、360度の視界を前提とした
ジオラマもありますが、ヴィネットでは見えない裏側を前提にするアプローチは殆どありません。空間が狭かったり
絞り込んでいるので、裏ができる余地が少ないだけですが(笑)。タイトルプレートなどで正面を作ったりはします
が、死角の省略まで鑑賞角度を固定するのは逆に難しいですしね。立体展示を前提とした制作・構図・演出が前提と
なる場合が殆どだと感じています。


日本人はヴィネットが得意!?

これは余談みたいなもんですが(笑)、最近、食玩ブームやワンフェスの動向を見て感じることなんですが、造型の
趣向が恐ろしいくらいに深まっていると感じています。ガンプラやキャラクターフィギアなど一昔前では想像もつか
ない位の技術・センスの飛躍があり、鉄腕アトムや悟空の髪型といった2D世界が3Dで見事に再現されているのには
驚きでした。そんな中、海洋堂の食玩でキャラクター物のヴェネットに注目しました。具体的にはハイジやラスカル、
ムーミン、アキラといったシリーズ物なんですが、これが片手手の平に収まる小さな商品で、見事にそのキャラクタ
ーをとらえた造型はもちろん、象徴となる動きや設定背景・情景・感情といった物を封じ込め、一つにまとまった立
体的な世界を作り上げています。正にこれこそがヴィネットの神髄とばかりに見惚れてしまいます。
また、これに類似した感動に「ハーモニーキングダム」というイギリスの造型師チームによるオブジェというかフィ
ギアの世界があります。様々な動物をモチーフに、写実的なものもあれば漫画的なSF設定もある世界ながら、これ
また立体的な展示を前提としたセンスある纏まりがあります。この製品群に別の名がついているのですが、それが
「西洋根付」です。ここの造型師も自他共に認めているのですが、ルーツは日本の伝統的な嗜好品「根付」にあると
言っています。「ねづけ」?、知らない方も多くて当然ですが、これは日本が江戸時代に庶民に流行った嗜好品で、
目的はタバコ入れや薬入れの紐を帯に引っかける為の留め具であり、現代で言うところの携帯ストラップの様な物ら
しく、そこに細工や美意識を詰め込んだ様々な造型が深まったそうです。今でも収集家やオークション等で高額な取
引の対象になっているほど愛好家を掴んでいるのですが、その留め具という用途に限られたサイズに様々な造型を封
じ込め、またそれが立体的な鑑賞を前提にしており、その趣向にのって様々な作家が造型を競っていたとのことです。
食玩の造型から根付けと飛躍しましたが、小さく限られたサイズで立体造型を作るといった観点、ヴィネットと繋が
る様な気がしますし、「小さくコンパクトに纏めるのは日本人は得意」ってのにも合点するわけですから、食玩や模
型の世界だけでなくヴィネット的なものに心が動くのも納得しちゃいます。

▲海洋堂の食玩ヴィネット。キャラクターの特徴をとらえた造型はもちろん、原作のイメージを凝縮させた演出がいろいろ仕掛けられています。 ▲ハーモニーキングダム。西洋根付と呼ばれるこのフィギアは360度の鑑賞を前提に作られたものが多い。背景のストーリーや隠れキャラの存在など遊び心に溢れています。 ▲根付(これは筆者所有の現代根付)。江戸時代に庶民に流行した嗜好品、現代で言う携帯ストラップみたいなもの。これまた匠な造型美が溢れた日本の文化です。
まとめ

「ベースを含めた単品作品」
限られた空間(ベース)をキャンパスに、表現したい要素(車両・フィギア・物語・情景・美意識・メッセージ・感
情・動き・ユーモア・風刺・他・・)を絞り、凝縮をもって単品作品の如く纏まりと立体的なディスプレイを演出する。
思いついた事を私なりにこじつけて長々と書いちゃいましたが、要はヴィネットって言葉にすると難しいがフィーリン
グで感じる確かな存在感があるわけで、そういったアプローチに酔っているわけです(笑)
個人的にはAFVに限らず、飛行機でも艦船でもキャラクターでもこのヴィネット的アプローチは面白いと思っていま
すので、ライフワークならぬ、模型ワークとして色々アプローチしていきたいと思っています。

では、作者の独断と偏見によるヴィネットの極意を箇条してとりあえず締めておきます(笑)


あしたのヴィネットの為の極意

●その1! 見せ場は明確に絞り込むべし!
●その2! ベースを含め単品模型の如く、纏まりを図るべし!
●その3! 360度の鑑賞を前提にすべし!
●その4! 凝縮・削除・強調を操るべし!
●その5! ベース・タイトルプレートも作品の内と心得るべし!


以上、順不同、今のところこんなもんでしょうか(笑)。