ミニスケ(1/72・1/76)の魅力について パート2


オープン時に書いたミニスケールの魅力については今読むと恥ずかしい内容なんですが、前の自分が何を
考えていたのか面白いですから、それはそれで残しまして、以前、モデルアートで要約して書いた内容の
「ミニスケールの魅力」を少し整理してまとめてみました。

振り返れば私も皆様と同じくAFVは1/35のMMシリーズを入門に夢中になっていた口で、ディティール
アップの世界を知ってからは、アベールのエッチングやカステンの可動履帯、憧れのモデラーさんの様に
作りたい!ってな思いで、色んな技法やテクニックを真似ながら、自分のスキルが少しづつ成長するのが
楽しくてらまらない感じでした。リアルを追求するのに夢中になってたんですが、そんなある時、ミニス
ケールでしっかりと作り込んだ作品を観た時、とても惹きつける様な魅力を感じたんです。手の平に収ま
る小さな模型の独特の存在感・・・。何だろう?・・この不思議な感覚・・・・。
この不思議なトリップ感を追いかける内に、どんどんミニスケールという分野に引き込まれた次第です。
そしていつの間にかAFVの楽しみ方自体が変わっていったと思います。

ミニスケールマジックと呼ぶサイズ違いが作る錯覚。

単純な話1/35より1/72は半分のサイズ、体積でいうと1/8になってしまいます。屁理屈を言うなら
ディティールの再現度も1/2〜1/8って事なら順当なのかもしれませんが(笑)、実際は製品の精度の向
上や各モデラーさんの挑戦でかなりのディティールが実現できています。最近のキットなら35並の細かい
モールドのキットもありますし、このあたりにミニスケールの独特の魅力が隠れていると感じています。
しかし、スケールモデルの醍醐味である実車の再現度においては金型技術や素材を共有する限り、72が35
を越えることはありえないですし、35以下のディティール、簡易的な存在であるという先入観は誰にでも
固定概念としてあるはずです。だからこそ不思議に感じるのですが、明らかに35サイズよりも精度や再現
度が甘いにも関わらず、35以上の作り込みや緻密感を感じることがあります。
縮尺サイズの違いが作る密度の違いが人間の目に不思議な感覚を作るのだと感じています。仮に35と72で
ディティールを揃えて再現できれば、模型としての密感は72に軍配が上がる訳で、恐らくこの構図は72に
対して144にもあるのだと思います。もちろん、小さな模型の精度の低さが作るオーバースケールやディフ
ォルメがこの密度を更に助長していると思います。私達の仲間内で、この小さな模型が独自に作る錯覚を総
称してミニスケールマジックと呼んだりしています。
この錯覚が面白くなってくると、ミニスケールを何処までも細かく作ることが楽しくなってきます。本来
は低年齢の入門用や数のコレクション用といったジャンルですが、一方ではこのサイズでディティールア
ップや精度を求めた大人げない(笑)作り込みが楽しくなってしまうと・・(笑)。
小さいだけに手間は増えますが、その分発揮する効果も大きく、その辺で深みにはまってしまうと作る楽
しさが更に広がっていきます。

鑑賞距離という概念

絵画等も大きさによって鑑賞の距離が変わるように、ミニスケールと1/35サイズではあきらかに鑑賞する
距離が変わるようです。これも面白いことなんですが、展示会などで35サイズの中にミニスケールがあっ
たりすると、「ん?」と気が止まった方は必ずのぞき込む様に近づいてきます。かなり作品に顔を近づける
のですが、例えるなら35のフィギア一体に焦点を合わせるような距離です。ミニスケールにはのぞき込む
ような独特の視野(フィールド)があると思います。この辺が不思議なトリップ感を作る要因だと思います
が、ミニスケールが好きな人が良く生で見る機会での違いを語るのはその辺の起因していると思います。
このスケール独特の空気感というか、世界観を感じることができます。もちろん、ミニスケールだと「35
では作れないような複数の車両を使った大きな情景ができるね!」といった意見をよく頂きますが、それは
35サイズの視点と鑑賞距離での発想で、そういったパノラマ的な距離でミニスケールを選択する事も、もち
ろん可能ではあります。しかし、ミニスケールをあえて選ぶ方の多くは、のぞき込む様な独特の視野に収ま
る小さな世界で作品を作る傾向があると思います。

少し余談ではありますが、私はこの独特の緻密感と鑑賞距離を伝えたいときに、スイスの機械式時計の話を
例えに使います。個人的に好きなのもありますが(笑)、腕時計といった制限された小さな物に、複雑な機能
を詰め込む為には、何処までも小さく精度のあるパーツが必要で、機能が複雑になればなるほど、密度の高い
ムーブメントが作られます。正にこれこそのぞき込む魅力で、愛好家の多くはこのメカニカルな小さく緻密な
世界に魅せられています。機械式時計が持つこの小さな世界には技術やアイデアやデザインから美しさ、ユー
モアまで様々なものが詰め込まれていきます。目覚まし時計のサイズではダメなんです。このサイズだから・・
・といった独特の世界観があります。そう言った感覚に似たモノをミニスケから感じちゃうと(笑)。生で見
なければ良さがわかりにくいってのもよく似ていますよね。

ディフォルメの魅力を逆手に楽しむミニスケの表現法。

同じAFVであるのに、単にサイズが違うというだけで、まるで別のジャンルであるかのような相違点がありま
す。当たり前ですがパーツの流用は一切できませんしね(笑)サイズが作る錯覚や独自の鑑賞距離と並んで、
表現の方向性にも違った可能性を感じています。リアルに反するディフォルメの方向を逆手に楽しむというの
は面白い可能性ではないかと。

ミニスケールマジックと矛盾する方向ですが、これは情景や表情といった表現の方向でのお話。極端な例をあ
げるとフィギアの表情や演技なんかは代表格で、精度があって始めて実現する微妙な表情や演技、リアルな描
写という大きなサイズにしかできない領域があります。ミニスケールで35と同じ様なリアルな描写を表現をす
るのは非常に困難な道となります。単純に1/1がリアルである以上、1/35・1/24・1/16と縮尺が下がれ
ば下がる程精度が上がる訳で、リアルの方向に有利です。逆に縮尺が上がれば上がるほど、精度が下がる訳です
から、リアルとは逆の方向で表現を選んでやればどうか・・・・ 
短所を逆手にとった発想に変換しているだけ、言うならば「精度ではどこまでも35サイズには叶わない」って
事実の裏返しの屁理屈にも聞こえますが(笑)、これがまた面白いことに、絵画的な漫画的なディフォルメが
意外と白けないというか、しっくりきたりします。写実的なリアルよりも抽象的にぼかした表現の方がかえって
まとまりがあるといったアプローチです。そういった作風やテイストで表現の選択肢を拡げると、ミニスケール
でもヴィネットやジオラマで独自の領域が作れる様な気がしました。

もちろん、ディフォルメの表現に関してはあくまで一つの可能性に過ぎないわけで、ミニスケのリアルも一つの
可能性ですし、リアル・ディフォルメの2極ではなく、表現には様々な可能性があるハズですから、色んな可能
性をはらんでいる事は付け加えますね。

まとめ

始めはミニスケールの独自の魅力って部分を強調しようと、あえて35視点で比べる様に書きましたが、やれば
やるほど35あっての72とも感じてきましたし(笑)、また、単純なカテゴリーに分けられるわけではなく、
上記の内容に至っても全ての人が共感する訳じゃないとも思いました。
違いや区別をハッキリさせるのはそんなに意味があることではなく、モデラー各位で違いや可能性について考え
たり、自分なりの結論を持ったりと思いを膨らませる行為に意味があると感じました。
実際、私自身は以上をのことを考えることによって、様々な気づきがあり、可能性を見つけるきっかけをもらっ
たと思います。
そうなってくると、あとは作者が何を作って、何を表現したいかという作者の趣向が問われる訳で、そっちを基
準に、サイズの違いや技法はおろか、ジャンルすら選択するといった感覚がしっくりくる感じがしました。絵画
でも油絵や水彩などの技法も違えば、写実画・抽象画・印象画等、ジャンルも違うといった棲み分けが確立して
いるわけですが、そこに優劣もなければ古い新しいもないわけで、作者が何を表現したいかで自由に選択してい
る訳ですしね。
とにかく、ミニスケールといったジャンルの魅力が、模型ライフを更に豊かにする選択肢になれば幸いですね。