Date: Thu, 01 Jun 1995 17:45:37 +0900
From: Michio Miwa
Subject: [climbing 104] inspon

  三輪@同流山岳会です。
  インスポンの記録です。


		インスポンの記録

1.要約
・物価が安い。日本の1/3くらいの感覚。
・インスポンの岩登りは怖い。ビレーピンがない。
・グレード付けが日本と異なる。日本より低め。
・白雲山荘の食事はたいへん満足。

2.記録
日時:1995年5月4日〜5月7日
参加者:大西、湯山、佐藤、三輪、川島、岩瀬、福田
内容:

(1)初日
 大韓航空の出発時間は、9時40分なので、7時半に成田空港集合としてい
た。新小岩に住んでいる私は、5時に家を出ようと思っていたが、1時ころに
目が覚めてしまったので、そのまま成田空港に向かい、駐車場で眠ることにし
た。 

 成田空港には、新小岩から40分ほどで着いた。いつも利用しているUSA
パーキングの前で眠る。USAパーキングの人は6時ころやってきた。車をい
れてお金を払う。6180円。後から聞いたら、4日間で3000円くらいの
ところもあったそうだ。ボラれてしまった。 

 7時半過ぎには全員集合して出国手続きをする。航空券は格安のを手にいれ
たはずであるが、5月4日発ということで、82、000円。安くはない。

 我々の乗った大韓航空機は臨時便だそうで、満員であった。スチュワーデス
さんは、韓国人なのか日本人なのか良くわからないが、日本人と区別がつかな
いのでどちらかのだろう。 

 それにしても愛想笑いがない。皆美人なのに微笑んでくれない。儒教系だか
らなのかもしれない。

 成田からソウルまで、2時間しかからない。2時間だけでは食事は出ないだ
ろうと思っていたら、ちゃんと出ました。メニューはステーキ(といっても薄
い肉が数枚)で、そのほかにもちゃんとついていました。 

 食事のあと、すぐにコーヒーやお茶のサービスがあって、さらに機内販売ま
である。このため、スチュワーデスさんはとっても忙しそうだった。

 無事、金浦空港についた。荷物を受け取ろうとしたら、変なタグがついてい
て、係官が全部開けろという。しょうがないので、ヘルメットだの、ザイルだ
の、フレンズだの、シュラフだのと出して行ったら、途中でもう良いというこ
とになった。 

 金浦空港には、仲間の会社の人が出迎えてくれていた。この人達の手配で、
任寿峰までのタクシーに乗った。途中でコンビニにも寄ってもらうことにした。

 韓国の道路は恐ろしい。車は各々ものすごい勢いで飛ばすし、割り込みも頻
繁にあり、割り込ませないように車間距離も少ない。

 面白いのは、赤信号でも行ってしまうことである。車は一応赤信号だと止ま
るが、左右の安全が確認されると行ってしまう。最初はタクシーなので、無謀
な運転をしているのかと思ったら、バスもやはり同じことをしていた。 

 途中の道すがらこれから行く山のほうを見ると、岩山が見える。それも行く
つかみえる。韓国は道やら岩山が多いらしい。

 登山口のトソンサまで約1時間でついた。料金は3万ウォン。岩と雪の資料
によると、2万ウォンと書いてあったので、ちょっと高いが日本円では、3千
円くらいなので日本の感覚からするととても安い。 

 登山口に近づく頃から登山者をたくさん見るようになった。韓国は今登山ブー
ムらしく、登山は人気の高いスポーツであるというのが良くわかる。

 トソンサは北漢山国立公園の入山口で、入山のとき入山料がいる。200ウォ
ン?。

 北漢山国立公園の地図をもらった。

 トソンサから白雲山荘までは、徒歩約1時間である。実はこのことをすっか
り忘れていて、荷物を大量にもってきてしまった。結局予備のザックを含めて
ザックを2つ担ぐことになってしまった。 

 白雲山荘までは、良く踏まれた山道を行く。整備もされている。途中でたく
さんの登山者に出会った。

 白雲山荘は山の中腹にあった。こんなところじゃ水はどうしているのかなと
思ったら、ちゃんと井戸がある。岩山なのに頂上からそれ程遠くない所に井戸
があるのが、とても不思議だった。 

 白雲山荘は3年ほど前に焼けてしまったが、今は仮小屋で営業している。屋
根がビニールシートで覆われている。その小屋の前にはテラスがあり、10人
くらい利用できるテーブルが4つくらいある。 

 我々はそのテラスの下のテントに泊めてもらえることになった。テントは2
張。テントの下には板のすのこが敷いてあり、いたって快適だった。

 食事は小屋ですることになっている。

 小屋の脇に例の井戸がある。この山荘は、トサンサから白雲台への登山コー
スに当たっていて、とっても人通りが多い。

 テントの中に荷物をいれて、早速岩場の偵察に出かける。岩場はテントから
10分くらいの所にある。写真で見ていたが、任寿峰は花崗岩の大きな塊である。

 大スラブには数パーティがいて練習していた。私は最近やっていないことも
あり、スラブの上を歩くのはとっても怖い。

 大スラブの一番下のピッチでまず体を慣らす。花崗岩の結晶が大きくフリク
ションが非常に良く利く。韓国のクライマーは手をつかずにすいすい歩いてい
るが、我々の感覚からするととても怖い。 

 大西さんが、10.aのルート(大スラブの真ん中にあるオーバーハングの
左にあるルート)を登ることにした。このルートは、日本の10.aとあまり
グレードが変わらないようだ。 

 岩瀬、川島パーティは仁寿Aなどに向かうルートに登って見ることにする。
5.7のはずであるが、途中にビレーピンが1本しかなくとっても怖そうだった。

 韓国の山は、フリクションが抜群に効くので、フリクションを信頼してピン
を打たないようだ。しかし、我々の感覚からするととっても怖い。実際、一つ
間違えばまちがいなく死んでしまいそうである。 

 6時過ぎにテントに戻り、夕食を食べる。夕食は山荘の中のテーブルで食べ
る。焼き肉、キムチなどの小皿が10種類くらい、それにご飯と、韓国風の味
噌汁である。山小屋にしてはとっても豪華である。しかも、食べ放題なので、
いっぱい食べる。 

(2)2日目
 2日目は良く晴れた。しかし、風が冷たい。大陸につながっているせいか、
風が本当に冷たい。干に当たっていると暖かいが、曇ったり日陰にはいると本
当に冷たい。 

 朝は、やはりキムチ、焼き肉すこし、それにもやしのスープでたっぷり食べ
られる。

 私は、大西、福田の3人で仁寿Bを登ることにした。4ピッチ
で、5.8、5.7、5.6、5.4のグレードである。 

 大スラブは大西さんのトップで行く。大スラブの1ピッチ目は、途中のビレー
は1本。その次は途中に2本しかない。怖いなーとおもった。何回も来ようと
思わないところである。 

 仁寿Bの1ピッチ目には、すでに3パーティくらい待っていた。韓国のパー
ティは人数が多い。5人くらいがつながっている。任寿峰はゲレンデだそうで、
トップとラストは旨い人だが、後は新人とか初心者でとっても時間がかかる。

 実際、1ピッチ目下部のV級くらいのところでとっても時間がかかっている。

 1ピッチ目の核心部は上部のクラックの抜け口であるが、これが結構悪い。
大西さんがトップを引いたが、3回くらい落ちてしまった。

 セカンドで行って見ると、確かに変なバランスがいる。最初はレイバック気
味で行けるが、抜けるときクラックから抜け出してマントリングのような感じ
で行くと行けるようだ。 

 我々の前のパーティのトップはこのクラックをあきらめて、左のフェースを
行ったのだが、何回も落ちていた。

 この人に限らず、いたるところで、落ちている人がいる。ヘルメットなんか
も落ちてくる。 

 ここは、かなりの突撃精神がないとやって行けないようだ。

 2ピッチ目以降は私がトップを引くことにした。2ピッチ目はとってもなが
いクラック。ビレーピンは1本もないので、フレンズをかませていく。このピッ
チは、フィストジャムが面白いようにきまる。落っこちないように、足をクラッ
クにねじ込んで登るのであるが、あまりねじ込みすぎると抜けなくなってしま
う。 

 このクラックは上のほうで少し傾斜が落ちる。

 3ピッチ目もやや広いクラック。5.6である。このくらいが私にとっては
ちょうど良い。途中左にトラバースするとビレー点である。

 ここは木が少し生えている。ここまでにすごく時間がかかった。8時頃登り
初めてすでに、3時である。 

 最後のピッチは5.4と書いてあったので、楽勝かと思ったら甘かった。2
0mくらい行ったところで、5〜6人たまっていたので、ビレーピンがあるの
かと思ったら、なんとたった1本のフレンズに全員が自己ビレーを取っている
ではないか。 

 しかも、彼等はさっさと登って行ってしまった。悪いことに私はそのサイズ
のフレンズを持っていない。仕方がないので、ザイルを垂らして、フレンズを
持ち上げた。 

 この後は、大西さんにトップを交代したが、このピッチを含めて2ピッチは、
ビレーピンが1本もなかった。落ちたら確実にあの世行きなのに。

 最終地点からはすぐに頂上である。他の2パーティと合流して下る。下りは
2ピッチの懸垂であるが、懸垂の出だしや、途中、懸垂を繋ぐところなど以外と悪い。

 2ピッチ降りて本当にほっとした。

 佐藤、湯山パーティは、仁寿Aを登り、昼頃頂上に上がり、4時間くらい上
で待っていたようだ。

 岩瀬、川島パーティも、仁寿Aを登ったが、かなり苦労している様子が隣か
ら見えた。

 佐藤さんパーティは登り足りないので、大スラブ左の側壁でフリークライム
を楽しむ。

 後から聞いたところによると、12.aのルートをフラッシングして、韓国
人クライマーから喝采をあびたようだ。

 今日も焼き肉である。こんな食事を毎日していたら、確かに強くなりそうだ。
しかも、キムチの辛さである。しかし、韓国通の岩瀬、湯山両氏によると、こ
このキムチは日本人向けのためかあまり辛くないそうである。 

 小屋のテラスからは、ソウル近郊の夜景がとても美しい。

 小屋の周辺は、鳥も沢山いる。仏法僧も鳴いている。日本だと、鳳来寺山等
にわざわざ出かけて行っても聞けないことが多いが(大学のとき行ったが聞け
なかった)、ここでは、山鳩の様な感じで鳴いている。 

 金浦空港から1時間程度の所にこんなに自然が豊富で、クライミングが出来
るところがあるのが素晴しいと思った。

 東京だと、幕岩にしても2〜3時間かかるし、小川山になると、日帰りは困
難である。

 任寿峰はとってもにぎわっているが、ソウルから簡単に日帰りが出来る。韓
国からすごいクライマーが排出するのは時間の問題であろう。

(3)3日目

 2日目の、恐怖に負けて、3日目は、岩瀬、川島、福田の4人でハイキング
することにした。入山の時もらった地図が役にたつ。

 まず、白雲台に登る。白雲台は、岩山の上の展望台である。途中の岸壁には、
階段や手すりがしっかりと整備されている。一般の登山者向けには、ちゃんと
していると感心してしまった。 

 地図によると、白雲台から稜線通しで、北門(ペクムン)経由で祥雲寺に行
けるはずである。

 しかし、途中で道がない。えらく悪いガレを下ったり登ったりして道を探し
たが結局あきらめた。

 地図には、実線で書いてあるのに、どうも地図は信用できないようだ。

 予定のルートを行けなくなってしまったので、今度は逆方向に、露積峰
(Nejok-bong)の方角を目指す。こちらは登山者が沢山歩いているので道もはっ
きりしており安全である。 

 韓国の山には、若い人が多い。特に、ギャルが沢山いる。歳をとった人が以
外に少ない。日本の山は今中高年ブームで、縦走路で出会う人に中高年の人が
非常に多いのとは対照的である。 

 途中の山小屋でラーメンを食べた。白雲山荘には、インスタントラーメンが
大量に積んであり、一度食べて見ようと思っていた。

 かなり辛いがなかなかおいしい。

 韓国の人はインスタントラーメンがすきなのか?ソウル市内でラーメンを食
べたら、インスタントラーメンの上に、卵や野菜の本当の具が乗っていた。

 さらに、南に下り、輔国門(Pokugmun)までいく。ここまでは、ずっと稜線
伝いであった。この稜線には城壁が作ってあった。輔国門(Pokugmun)も石作
りの立派な門である。 

 ここから、谷筋を下る。大古寺の下を通って、駐車場の方へいく。ここは、
我々が入山した所と比較して、白雲台のちょうど反対側に当たる。

 稜線から谷筋を下りていくと、すぐに水が流れ出す。この当たりが日本の山
と違っている。岩ばかりの山なのに、稜線のすぐ近くに水があるのは、岩盤が
固いので水を通さないためなのかもしれない。 

 植物が日本のものと良く似ていて、日本の田舎を歩いているような感じであ
る。

 駐車場の所では韓国風のお好み焼きを食べた。これがパリッとしていて、な
かなかいける。山小屋はいろいろ工夫してくれてはいるが、やはり保存食的な
ものが多かった。 

 お好み焼きにもキムチがついてくる。韓国ではキムチは水代わりのようであ
る。

 ここからは、白雲台に向けて登っていく。韓国の人は、負けず嫌いの人が多
いみたいで、結構張り合う。

 テント場に着いたのが4時だった。少し休憩してから、岩場にいき少しだけ
遊んだ。

 岩場から帰って見ると、友情Bを登った、大西、佐藤、湯山パーティも帰っ
てきていた。今日も順番待ちで大変だったようだ。

 テラスには、韓国の山岳界ではとても有名な通称OEG(Original
Elegance Gentleman と本人は言っていた)さんがいて、写真を見せてくれて
いた。OEGさんは、エベレストにも登っていて、フリークライムは、13ま
でいくそうだ。ガイドをやっているそうである。 

 12クラスのルートがストレスもなくちょうど良いといっていた。とんでも
ない人である。

 OEGさんによると、昨日今日と沢山岩登りをしている人は、韓国の南の方
の学生が多いらしい。

 韓国の人は、学生時代岩登りをよくするが、就職するとほとんどやめてしま
うらしい。

 また、ビレーピンが少ないのではと聞いたら、あれでも多くなったそうであ
る。

 日本の感覚とはかなり違う。

 私の推測するには、韓国で岩登りする人は、若い人が多いので、大胆な行動
をする。また、岩登りが始まったのが比較的新しいので、クリーンクライムの
思想が強く反映されている。さらに、ボルト等は輸入品なので高価なため、や
たら打たない。日本の岩より結晶が大きくフリクションが良く効くため、事故
が少ない。といった理由でビレーピンが少ないのかもしれない。 

 確かに日本の山だと、湿気も多く、岩がぬるっとした感じであることが多く、
滑りやすい。

 この日は、OEGさんの誕生日だそうで、バースデーケーキまでご馳走にな
り、9時半頃まで飲んでいた。

 OEGさんは、世界中の山を登っていて、長谷川恒夫などと、穂高を登った
りしたことがあるらしい。

 OEGさんによると、韓国には、雪岳山(Sorakuan)というところがあって、
東海岸の北のほうにあり、温泉もあり刺身も食べられる、とてもよい岩場があ
るそうだ。冬には、400mのバーティカルな氷壁ができるそうである。 

 この日は、OEGさんの仲間のアンナプルナに登ったこともあるトンさんや、
山岳警備隊の人もいた。

 任寿峰のビレーピン等は、こういった人達が整備しているそうである。

 OEGさんに連絡する場合は、白雲山荘のOEGさんで届くそうである。

(4)4日目

 最終日は、ソウルで買い物をした。

 白雲山荘からは、バス停まで歩き、バスに乗った。ソトンサのあたりは、こ
の日は何かのお祭りらしくすごい人出だった。

 ソウル市内の登山用品店にいった。韓国では、FiveTenの靴を作って
いる。日本でも良く売られている。これが、5000円くらいで買える。私も
1足買った。 

 ほかの人は、クライミングシューズ以外に、運動靴も買っていたが、後から
聞いたら、とてもはき心地がいいそうである。

 韓国では、フレンズも作っている。これが、1セット8個で、18万ウォン。
日本円で1個約2000円である。とても安いので、これも1セット買った。

 私のこれまでもっていたものに比べると、軽くできており、セッティングも
しやすいようになっている。性能は、任寿峰で皆すごいところを登っていたの
で、信頼することにした。 

 ザックを店に預けて、昼飯を食べ、土産を買った。

 南大門近くなので、すごい賑わいである。お土産には、韓国海苔を買った。
塩気が効いていて、とてもおいしい。小屋の食事にも毎回出ていたものである。

 帰りの飛行機も満員であった。スチュワーデスさんはやっぱりむっつりして
いて、我々が汚いせいか、すごい形相でにらみつける人もいた。

 成田では、荷物の受け取りもスムーズですぐに帰宅することが出来た。

[Copyright (c) 1995 by Michio Miwa]