高角砲の数における考察他


2008.5.20 新規作成


表1:本土での高角砲の配備数
砲種 横須賀 佐世保 舞鶴 大湊 航空隊 その他 合計 砲種 陸軍
15.5cm 4 4 8 15cm 2
12.7cm連 94 40 68 20 28 20 2 272 12cm 126
10cm連 12 18 12 0 4 18 0 64
12cm 57 36 40 12 48 214 69 476 8cm 706
8cm 2 21 11 42 23 7 38 144 10cm 22
7cm野 26 9 14 0 0 83 57 189 7cm野 747
その他 30 30 新7cm野 20
合計 191 128 149 74 103 372 166 1183 1617
海軍は引渡目録、陸軍は昭和20年6月(高射戦記)実数は不明


表2:その他の防空関連兵器・機器一覧
機器 横須賀 佐世保 舞鶴 大湊 航空隊 その他 合計 砲種 陸軍
機銃 691 536 241 946 1154 2750 2266 8584
射撃用電探 9 6 4 2 1 22 2 45 た号 134
探照灯電探 5 5 2 0 1 10 2 25
3式陸用 3 0 4 0 0 3 0 10
2式陸用 22 0 16 0 3 17 10 68
95式陸用 19 0 3 1 0 0 0 23
4式射撃 6 3 5 1 3 22 3 43
高射装置 1 26 5 0 26 11 2 69
海軍は引渡目録、陸軍は昭和20年6月(高射戦記)実数は不明


アジア歴史資料センターで公開された海軍の引渡目録で追える範囲で、日本本土(朝鮮半島、一部離島を除く)の防空兵器に関する記事を抜き出してまとめてみた。全ての資料があったわけでもなく、また数の精度の問題や数え間違いもあるので、数としては余りあてにならない事を予め断っておきたい。

面白いのは高角砲の総数だけだと、陸軍のものとそれ程変わらないということである。資材獲得競争では海軍は陸軍に負けていなかったという事だろうか。

しかしそれでも全体としての数は少なく、各軍港での高角砲の数は100門前後しかない。しかも射撃用電探の指揮下にあるものは更にその5分の1程度であり、動員の乱発による高角砲兵の質の低下という要素も考慮すると戦力には成り得なかっただろう。更には本土の防空砲台は殆どが電源を外部化していた為に空襲による停電によって射撃ができなくなったり、また終戦時の1門あたりの準備砲弾数が100〜500発しかなかったことを見るにつけ、余りの不甲斐なさに情けなくなってしまう。





表3:1932年から1945年までの高角砲の生産数
生産年 3年式
8cm
10年式
12cm
89式
12.7cm
98式
10cm
98式
8cm
1式
12.7cm
備考
32 60 20 30
33 70 15 30
34 70 40
35 50 40
36 70 50
37 70 60
38 70 70
39 70 70
40 70 80 5 4
41 57 96 14 2
42 48 32 145 48 8
43 60 520 299 62 7
44 60 1600 296 40 7 1
45 120 2000 320 140 12 170 予定
合計 825 2152 1306 169 28 1 44年までの
原書房「高角砲と防空艦」より




表4:高角砲の生産に必要な労力
砲種 単位 労働単位 同左、弾
40口径12.7cm高角砲(連?) 1 piece 6500(3250) 3000
45口径12cm高角砲 1 piece 2300 3000
65口径10cm連装高角砲 1 piece 8500(4250) 3000
65口径8cm連装高角砲 1 piece 5000(2500)
40口径8cm高角砲 1 piece 2000 1900
25mm連装機銃 1 piece 600(300) 200
46cm三連装砲塔 1 turret 330000
46cm砲身 1 barrel 10000 35000
15.5cm三連装砲塔 1 turret 43000
15.5cm砲身 1 barrel 2500 3500
50口径12.7cm連装砲塔 1 turret 11000
50口径12.7cm砲身 1 barrel 1500
探照灯 1 piece 500
61cm魚雷 1 piece 1200
40KVA交流発電機 1 piece 93
ネ20 ロケットエンジン 1 piece 1200
国会図書館所蔵、USB13 R253D 「MAN-DAY Required For Military products」より
1労働単位は一人で10時間労働、高角砲の単位は「基」(連装なら1基、単装なら1門)と思われるが、微妙。
(赤字)は1門あたりの労働単位



表3、表4から判るのは、98式10cm連装高角砲は論外としても、89式12.7cm連装高角砲ですら生産コストが高く(10cmで12cmの約2倍、12.7cmで約1.5倍)、結果としてより簡単に作れる10年式12cm高角砲で数を稼がざるを得なかった、ということだろうか。
逆に判らないのは生産コストが10年式12cm高角砲と余り変わらない3年式8cm高角砲が終戦まで製造され続けたということだろうか。生産設備や冶具の都合で切替が容易でなかったとしても、それだけ生産というものをないがしろにしていた事の証明になるだろう。

10年式12cm高角砲は古い砲で性能もそれ程高くない。装填装置も自動信管調合装置も無く、仕様書上の数字はともかくとして実際の発射速度は低かったと思われるが、生産しやすかった為に戦争末期に大量生産された。終戦時に海軍が装備していた高角砲の半分近くがこの大正時代に制式化された12cm高角砲である。しかし仕様書上ではハイスペックを誇った高価な98式10cm連装高角砲は戦闘詳報では故障の記事が多く、戦争末期にこのロートル高角砲に軸足を移さざるを得なかった事が、皮肉にも結果として最善の選択をしたことになったといえるだろう。




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