イギリスの艦載用高射装置(HACS)






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The British High Angle Control System (HACS)
Writen by: Tony DiGiulian
http://www.navweaps.com/index_tech/tech-066.htm






イギリスの艦載用高射装置(The british High Angle Control System (HACS))


背景:
第一次世界大戦が終わって間もない頃に、イギリスは対空防衛に関する帝国防衛委員会を組織した。その名の通り、この委員会の目的は空襲に対する防御の手法について調査し勧告することである。1926年に委員会は、艦船に対する正確な爆撃を行うには直線飛行、同一高度、そして一定速度という条件が必要であり、最も適した高度と速度で爆撃を行うべきであるという報告書を出している。この視点は、1920年後半に開かれた王立空軍(RAF)と王立海軍(RN)の合同会議で更に強化されたが、この会議で空軍は急降下爆撃の可能性を低く見て、高空(high-level)からの爆撃による危険性を繰り返した。

1931年には海軍対空砲術委員会による対空防御に関する有名な再調査(もしくは批評)がなされ、委員会はこの中で、艦船に対する空襲の主な手法は高空からの爆撃であると再度断言し、そして駆逐艦は高空からの爆撃や雷撃の目標にはならなず、急降下爆撃も脅威になならないと結論付けた。この結論は、1931年に急降下爆撃は専用機種でなければ難しく、故に急降下爆撃専用機のようなものは大量には必要でないという考えを持っていた空軍によっても、補強された。
委員会の駆逐艦に対する主な結論は、主艦船群に対して高空からの水平爆撃を行う爆撃機が駆逐艦の上空を通過することはあっても、駆逐艦が直接爆撃を受けることは無いと言うものだった。水平爆撃では、高度5000フィートでも、たった18度機首を下げただけでも5000ヤード先で海面に激突してしまうのである。そうした理由から委員会は、将来の駆逐艦に両用砲を搭載する必要は無く、また主砲の最大仰角も40度で良いというものだった。更に委員会は、遠距離射撃は近距離での防御よりも優先されるべきであると強く勧告したが、これは近距離防御は個艦でしか用をなさず、また高空からの水平爆撃機は艦隊全体を攻撃してくるものなので、これに対しては更に無気力になった為であった。この結論によって、1930年台に建造された駆逐艦には対空用の自動火器が少数しか搭載されなかった。遂には、高射指揮装置もしくはタコメーター付(タコメーターの指針を追従する事で計算を行うアナログ計算機)管制システムは、あまりに高価だと考えられたので考慮されることは無かった。この3年後、アメリカで同様な管制システムであるMk19指揮装置が装備され始めるが、このMk19はその後1930年台後半から40年代にかけてアメリカで建造された艦艇の殆どに搭載された高性能なMk37火器管制システム(FCS)の直系の先祖にあたる。

この対空火器に関する運命的になる欠陥を含む視点によって、英国海軍は第二次世界大戦の初頭において、恐らく主要海軍の中で最も対空防御が劣る状態になっていた。そうした中であっても、英国海軍の殆どの上級将校は自分達の未熟な対空システムであっても、空襲を撃退できるという高い自信を持っているのであった。この態度は、1936年にウィンストンチャーチル(当時の海軍大臣?)に対してアルフレッドE.M.チャットフィールド海軍大将(First Sea Lord Admiral)の述べた、「例え輸送船に高射砲を搭載しても、爆撃機は高空を飛行しているので撃ち落せる可能性は相当に低い」という言葉に最も強く顕われている。

事前に危険を認識していた水平爆撃の脅威に対抗する為に、海軍本部(Admiralty)はヴィッカーズ社に対して主な艦艇である空母や巡洋艦に搭載する高角管制システム、もしくはHACS(High Angle Control System、高角管制システム、高射装置)と呼ばれる物の設計を発注した。実用に用いられた最初の機種は、Mk1HACSと呼ばれるもので、1931年に良く訓練された乗員によって操作したところ、4インチ高角砲で飛行機1機を撃墜するのに178発が必要であると見積もられていた。1932年にはそれは136発まで下がった。このシステムは開戦まで改良されつづけられ、1939年に装備されていた最新の機種はMk4HACSになっていた。このMk4を含めて全ての初期のHACSは、目標の高度、速度、航路が一定で、かつ目標の速度を正確な見積の仮定のもとで見越す(aim-off)ことによって、初めて計算が出来るというものであった。簡単に言うならば、この高射装置の設計コンセプトには水平爆撃以外のいかなる爆撃方法も対応していなかった。それに加えて、装置に固有のラグタイム(計算の遅れ)があるために、1930年後半から就役し始めた速度の更に早い飛行機に対応できなくなっていた。

この欠陥の為に、急降下爆撃と雷撃に対してのHACSの使用は、敵機が艦艇に到達する為に通過する範囲への、炸裂する砲弾による弾幕を張ることだけに限定されてしまった。弾幕を張る際には信管は1500ヤード(1370m)にセットし、管制指揮官が高射指揮装置の前方範囲照準(HA director forward area sight HADFAS)によって見越し照準(aim-off)する。このモードでは、管制指揮官は急降下爆撃機を真っ直ぐに見ながら、目標にホースで水を当てるように水平・垂直偏差ハンドルを回してゆく。このような防御方法では当然のように予期されることだが、イギリス(他の多くの国々でも同様だったが)は苦労する割には弾幕が効果が薄い事を思い知らされる。例えば、空母イラストリアスの1941年1月の砲術報告では、3000発の4.5インチHE砲弾が1門1分当り12発の割合で発射されたが、HADFASと、拡張されたHACSそのものは、急降下爆撃機に対しては全く使われることがなかった。この逸話によって、何故その時にイラストリアスと他のイギリス艦艇とが空襲によって一方的にかなりの損傷を被らされたかが判るだろう。

大型の艦船では信管測合器が使われていたが、装填毎にハンドルで設定しなければならなかった。興味深いものの不幸なことに、こうしたシステムでは信管の測合から最も遅い砲手による発射までの間に死点(dead time)と呼ばれる時差が生じてしまう。駆逐艦では、殆どの4.7インチ砲においてHE時間信管が手動で設定されていた。その為に、砲撃の結果が信管の時間設定そのものだけではなく、信管の測合手までもが重要な時間要素になっていた。いかに早く装填・発射しても、もしくはいかに早く砲側に弾薬を運搬しても、良く訓練された信管測合手でさえ信管の測合には4、5秒かかってしまうのである。それ以上のスピードは信管の測合ミスを引き起こし、砲撃の効果を無くしてしまう。こうした要素から、信管測合手に一番負担のかからない、全ての信管を同一に設定する弾幕射撃が好まれるようになったのである。

駆逐艦に搭載された4.7インチ砲の殆どは40度までしか仰角が取れなかったため、その代用として魚雷発射機を3インチもしくは4インチ高角砲に置き換えた。またトライバル級(tribal)駆逐艦については、4.7インチ連装砲を4インチ連装高角砲に変更した。この4インチ連装高角砲は普通艦船の対空火器管制システムに連結されていたが、他の小さな駆逐艦の高角砲については手動制御で、最新の攻撃機には殆ど対応できなかった。

また注目すべきもののそれ程はっきりとしてない(not readily apparent)問題として、戦前にイギリスがHACSと高角砲の訓練に使用していた飛行機は、同時代の枢軸国側の攻撃機に比べて格段に速度が遅かったというものがある。この為に戦争開始直後に乗員が持っていた訓練経験は使い物にならず、実際に戦争初期の戦闘でHACSを使った対空砲火では殆ど敵機を撃墜できていないのである。

しかしHACSは戦争を通じて改良が続けられたが、中でも特に指揮装置の方向に自動で砲を旋回する遠隔動力管制器(RPC、remote power control)の搭載と285型レーダーの追加は大きかった。レーダーの加わった新しい機器もしくは改良機器では、正確な測距と速度計測が出来るようになり、更に重要なことには距離と速度の変化率も計算可能になったのである。戦時中に成された他の重要な改良としては、アナログ計算機とそれに接続されたジャイロスタピライザーによって構成され、速度と方向の変化率を計算可能なジャイロ加速度ユニット(GRU、gyro rate units、rate gyroは角速度センサ)とジャイロ加速度ユニットボックス(GRUB、gyro rate units box)の装備がある。これらの追加装備のおかげで、観測角と目標の対地速度を直接に高射盤(HA table、アナログコンピューター)に入力することが可能になり、攻撃機の進路の計測精度が向上したのである。しかしGRUBは風速補正の機能が無い為、指揮官は微風以上の風速の場合には計算結果に風速補正を行わなければならなかった。またGRUBは直線かつ水平飛行の目標にしか対応していなかったので、目標が小角度で上昇または下降している場合には指揮官がその動きに対応した偽の速度と方向情報を入力しなければならなかったし、指揮官は目標の進路に変化(alternation、交代)を発見したらGRUBの操作員に連絡して、GRUBの回転輪の設定を変更させなければならなかった。こうして、指揮官のこのような要素を見積もる技能が、艦船の対空防御に大きく関係することになった。

戦艦と空母は4基、殆どの巡洋艦は3基、例外的に巡洋艦オーロラとディド級(Dido class)巡洋艦は2基のHACSを搭載していた。駆逐艦に関しては、初期のバトル級がHACSを搭載していたものの、高射機(指揮装置)は簡単なものしか装備していなかった。他の駆逐艦と更に小型の艦艇はFKC(Fuze-Keeping Clock)と呼ばれる装置を装備していたが、この装置は高射盤と同じ原理を使い、高射盤(計算機)と同じように目標仮定の出来たものの、目標位置の記入(produde a plot)が出来なかった。FKCは自己完結型のユニットではなく、高角/平射両用指揮装置と組み合わされて使用された。目標位置の記入機能が無かったので、信管測合はFKC内の角速度時計(rate clock)に拠っており、FKCで未来位置を計算した。



Mk4HACSの操作

対空火器管制は高度に訓練された操作員と特殊な機器が必要である。(図1参照)

高射機の操作員(図2参照)は高射指揮システムの主要な要員である。旋回手と仰角手(layer、高度のことか?)とがジャイロ補正の無い望遠鏡を割り当てられている。この2人によって高射機(指揮装置)の仰角と旋回(setting and training ?)の情報が高射盤(アナログ計算機)へと伝達される。旋回は水圧で行われ、故障した際には回転把で行われる。仰角は回転把で行われるが、高度修正器(level corrector??)からの水圧駆動によって補助される。高度測定器(hight finder)は仰角手(the layer)から独立して動作するようになっている(?)。管制指揮官は旋回手と仰角手によって目標を維持させられる。指揮官の双眼鏡には目盛が刻まれ(graticle、=reticle、レチクル、光学器械の焦点面に置き、視野像と重なって観察者に見える目盛、指針、表示その他のパタン)、指揮官は目標の飛行機の胴体とこの目盛とが一直線にならぶようにしなければならなかった。指揮官はまた目標の速度を見積もった。高射機の情報は全て自動的に高射盤へ伝達された。

高射機からの情報を基にして、高射盤では目標の現在位置が決定され、目標の未来位置は偏差スクリーン(Deflection Screen、図3参照)によって決定される。偏差スクリーンでは、矢印型のポインターが付いた輪の映像がスクリーンの中央に投影される。矢印のポインターは目標の未来位置、輪は現在の位置、そして矢印の向きは目標の進路を示している。輪は視界の未来角度(future angle of sight、?仰角のことか)からの駆動によって傾けられ、スクリーン上の輪の映像は楕円形になっている。楕円形の大きさは、目標の速度を弾の速度の平均で割って計算した総量(an amount calcurated by dividing the target's speed by the average of projectile velocity、目標までの到達時間?)を表す大きさになるように、投影装置の移動によって調節される。

楕円の円周上にある現在位置と中心にある将来位置から、この2点間の距離を楕円の長軸と短軸にそれぞれ並行に測ることによって、垂直と水平の偏差が求められる。スクリーンオペレーターは連続的に、2本の垂直に交差した針金の交差点を楕円の円周とポインターの交点に合わせて動かしてゆく。この情報に、自艦の動きに集中(convergence、?)、そして横滑り(?)の情報を加えて高射盤に伝達し、砲の方向を計算するのである。

高射盤は砲弾の初速、砲弾の形状、空気の温度や密度を関数として弾道の高さを計算する。風の修正は指揮官の双眼鏡内のレチクルによるオフセット修正によって行われる。そして計算された弾道の高さから、対空砲弾の信管の設定時間が導き出される。時計信管の設定は以下のような順番で行われる:未来距離、未来高度、飛行時間、停滞修正(setback correction?)そして信管番号。未来距離は、予め計算された距離に更に情報が砲に伝わるまでの時間の経過を見越した死点時間を足したものになる。信管測合情報は連続して高角砲脇にある信管測合器へと伝えられている。

HACSはプロットも作り出す。現在距離開穴器(pricker、千枚通し)によって0.5秒毎に点が打刻されるが、これは観測されたプロットであり、平均もしくは描かれた距離プロットはプロットオペレーターによって生成されるが、この2番目の穴開器では1.5秒毎にダッシュ(−)を打刻される。また285型レーダーが追加されると、3番目の開穴器が連続して距離をプロットするが、小さな穴の連続としてプロットされた。????

加速度ユニット(rate unit)によって、測高儀が目標を見失ったり雲や煙で一時的に目標が隠れたりしても、高射盤は目標の未来位置の予測や目標のプロットの作成が可能なようになっていた。

以上に述べた事から判るように、管制指揮官による目標速度や風の方向や風速の予測能力が航空機への攻撃によって極めて重要な要素となったのである。


このような問題は、285型レーダーの導入によって幾分か解決できた。このレーダーによって管制指揮官よりも正確に目標の距離や速度、コースが測定でき、より正確なデータを高射盤に送ることができるようになったのである。しかしHACSは依然として同一コース、高度、速度の、言い換えるならば第二次世界大戦の最中に最もありえない(least-likely)種類の攻撃の仕方をする目標にしか対応できなかったのである。この欠点を補う試みとして、自動弾幕ユニット(Auto Barrage Unit、ABU)がシステムに加えられた。このユニットによって、選択した距離(普通900mから4600m)に目標が入った時に弾が炸裂するよう自動的に射撃を行い、一斉射撃による弾幕を可能にする。(しかしこれだと)目標が5000ヤードリミット(4600m)に入るまで射撃を維持しなければならず、また敵機が自分の武器で攻撃を開始する前の1度しか敵機を破壊する機会が無い。

GRU(ジャイロ加速度ユニット)の追加により高射機の名称はMk4Gに、更に垂直安定(cross-level stabilization)の追加によってMk4GBと変った。285型レーダーによってこれらの高射機は約5.5トンにまで重量が増加した。戦争終了時には殆どの高射機はMk4GBの通常版に更新されていた。



他の型番のHACS

Mk1からMk3までは主要な部分はMk4と似ていたが、唯一手動であった。

Mk5シリーズの高射機は、操作員が窮屈にならないように測距儀の位置を変更しただけのものだった。また最初からレーダーの搭載を考慮した設計だったために、Mk4へのレーダーの追加の際に発生した問題を緩和することが出来た。

Mk6は275型レーダーと合体させるように完全に再設計された。この設計では、管制指揮官が一つの目標と交戦中であっても、レーダー操作員が新しい目標を追跡可能になった。この装置によってレーダーによる盲射撃の能力が限界まで向上した。しかし高射盤は以前のままだったので、メーター類の追従操作の煩雑さ(tachymetric fittings)という問題が残っていた。ただ唯一、戦艦アンソンだけが終戦までにMk6を搭載したものの、巡洋艦オンタリオとスパーブ(Ontario and Superb)、そしてバトル級の最初の8隻の駆逐艦はFKC(信管固定時計?)を使った古いバージョンを搭載していたのである。



B.R.224/45に書かれている、大型の英国艦船に搭載された対空砲陣地の機能

436.水平射撃と同様に高角射撃においても、敵機に対する防御の成功の秘訣は唯一チームワークであり、その維持の為には一定の訓練に、個々のチームメンバーの困難さや複雑さの理解が必要である。高角管制チームは以下の通りである。

(1)防空将校(Air Defence Officer A.D.O)
437.チームのトップであり、一機たりとも敵機の接近を許してはならない責任を持つ。防空将校は艦橋の最上部に位置する防空指揮所において交戦する目標を防空将校の望遠鏡で選択し、接近する敵機を自分の思うところの高射機へと割り振る。

(2)補助防空将校(Assistant Air Defence Officer)
438.防空将校を補助し、防空指揮所にある防空将校の反対側の望遠鏡を操作する。

(3)長距離警戒レーダー操作員(The Long Range Warning Rader Set Operator)
439.このレーダーは長距離を飛行中の単機もしくは編隊の飛行機を捕らえるよう設計されている。受信した情報は情報管理センター(Action Information Center)に送られ、更にそこから防空将校へと伝えられる。

(4)対空見張員(The Air Lookouts)
440.彼らはチームの中でも最も重要なメンバーである。全部で6名で、片弦に3人づつで防空将校の両側にある特別な対空見張席に座り、専用の双眼鏡で見張りを行う。それぞれの見張員は自分の受け持ちの範囲を持つ。範囲内を双眼鏡で監視し、飛行機を発見し次第報告をする。一度敵機を発見したら、見張員は防空将校から更なる命令を受けるまで双眼鏡で追いつづける。

(5)高角管制将校(The High Angle Control Officer)
441.高射機に座り、防空将校から指示された交戦すべき敵機を照準し、射撃に必要な命令を計算部署に送り、その後に敵機に射撃を集中する。

(6)高射機操作員(The High Angle Director's Crew)
442.旋回手と仰角手が敵機を連続的に測距儀で追い続けるが、仰角手は測距儀の角度を操作し、視界に捕らえたら足でペダルを踏む。これによって計算室と対空指揮所にあるランプが点灯し、仰角手が目標を捕らえたことを知らせる。高射機の仰角手はまた発射ベルが鳴っている間、トリガーによって電気的に発砲を行う。

その他の操作員には測距手が居る。旋回手と仰角手が敵機を捕らえたらすぐに測距を行い、その後も連続的に測距を行い続け、可能な限り正確に目盛を読む。

(7)測距用レーダー操作員(The Radar Ranging Set Operators)
443.測距用レーダーのアンテナは高射機に装着されており、高射機が旋回手と仰角手によって動かされるのと連動する。アンテナは連続して敵に指向され、レーダーからの測距情報はレーダー測距パネル操作員からHACSへと伝達される。

(8)高射盤の操作員(The Crew in the High Angle Calculating Position)
444.高射盤の操作員は敵機の予想進路と予想速度を管制指揮官から連絡を受け、この情報から測量された距離と目標に指向した高射機の動きによって、砲の仰角、旋回角、そして信管番号が計算される。高射盤はまたある一定間隔で自動的に発射ベルを鳴らす。この発射ベルによって仰角手へいつ発射するかを連絡する。

(9)高角砲操作員
445.高角砲仰角手と旋回手は仰角と旋回レシーバーにある電気的指示器に合わせて砲を操作する。この時、正しい順番で信管を設定して設定した砲弾を装填する事が非常に重要である。なぜならそれぞれの砲弾にはそれぞれの時間最適に設定された信管が装着されているからである。射撃の速度が速くなってもこの点だけは犠牲にされることはなかった。



B.R.224/45に書かれた偏差スクリーン

425.図3はMk4の高射盤に付属する偏差スクリーンの絵である。盤内にある光学装置がスクリーン上に板に刻まれた(?)円を投影する。この円は視界角(angle of sight、?仰角のことか)に連動して機械的に傾斜し、スクリーン上で楕円になるが、この楕円の形状は視界角と連動することになる。

盤の内部にある光学装置は[u/a.p.v](敵機の降下速度/平均飛翔体速度、命中までの弾の平均速度の事か?)によって動く為、この値によってスクリーン上の楕円の正弦(the sine of ellipse、円でいう半径の事か)が変化する。

飛行機の方向は針金によって偏差スクリーン上に表示されるが、この針金は中心で旋回し、また管制指揮官の双眼鏡内の矢印と同期して回転している。高射機内に居る管制指揮官は、この矢印が飛行機の胴体に沿うように維持しつづけ、偏差スクリーン上に正しい方向の情報を送る。

426.偏差スクリーンの操作員はスクリーンの前に座り、楕円を注視する。操作員はスクリーンの両脇にある2つのハンドルを操作して、垂直偏差と水平偏差をマークする。2つのハンドルは画面を横切って、動かすことの出来る針金に繋がっている。操作員はこの偏差針金を飛行機の方向を示す針金と楕円との交点に合わせなければならない。偏差針金を楕円の中心から交点に移動させることによって、操作員は飛行機の垂直偏差と水平偏差を測ることができ、これらの情報を高角砲の旋回・仰角受信機にある赤い印として伝送し、旋回と仰角のそれぞれに必要な見越角を与えるのである。


米軍のMk37火器管制装置

英国海軍にも供給された、同時代のアメリカのMk37火器管制装置の説明無しではHACSの分析は終われない。イギリスではこれらの水平/高角システムと呼んでいるが、これは対艦対空の両方を意図して設計されているからである。このシステムが初めて紹介されたのは1939年の米国海軍駆逐艦シムス(Sims、DD-409)に搭載されていたもので、アメリカで建造中の全ての駆逐艦と、それ以上の大きさの艦艇に簡単に搭載可能なものであった。それまでのアメリカの高射機と違っているのは、射程保持器(rangekeeper、アナログコンピューター)を持ち、それをデッキの下に垂直安定に設置し、高射機そのものの大きさと重量を抑えている点である。このシステムの重要な特長は、対空用時限信管が装弾器で自動的にセットされる事であり、これによって信管測合の際の人為的ミスを無くす事が出来る上に、信管測合手の作業速度に高角砲の発射速度が影響される事が無くなり、高角砲の発射速度を向上させることが出来た事である。ノーマンフリードマン(Norman Friedman)著の「米国海軍の兵器」によれば、米海軍装備局(BuOrd、Bureau of Ordnance 、the U.S. Navy's organization responsible for the procurement, storage, and deployment of all naval ordnance, between the years 1862 and 1959.)の記録にもはっきりと書かれていないものの、Mk37の開発時の重要項目はシステムの遠隔部とのデータの自動伝達に関する信頼性の確保と、5インチ砲へのRPC(遠隔動力操作)の装備であった。装備局の記録ではMk37はレーダーを使い始める意図のあった最初の高射機であり、その為に高射機の屋根が平らになるように特に設計されている。

英海軍のHACSと違って、Mk37は全て計算機による(predictive、?)もしくはメーター追従による(tachymetric)システムである。これはこの火器管制装置のアナログコンピューターが、2次元方式で計算を行っている英海軍のHACSと違い、目標のデータの入力や計算を3次元方式(XYZ座標への分離方式)によって行っているからである。これによってMk37は、第二次世界大戦時に遭遇した攻撃機の中で最も多くて危険な急降下爆撃機と雷撃機との戦闘において、英海軍のHACSよりも有利であった。1941年型のMk37では、水平速度で400kt、垂直速度で250ktまでの航空機に対応できたが、これは第二次世界大戦中の攻撃機(ただし桜花を除いて)に対して十分であった。神風攻撃に対しては、特にアクロバットな動きをされた場合には、十分ではなかった。しかし全体回転サイト(integral slew-sight、?)と近接信管の導入によって、こうした種類の攻撃に対する効率も向上した。

Mk37火器管制装置が英国海軍に導入されたのは、古い巡洋艦デルファイがニューヨークの海軍造船所で1941年の終わりに兵装改装工事を受けた際に、5基のMk12三十八口径5インチ砲と共に2基のMk37火器管制装置が搭載された時である。予測ベース(predictive-based)のMk37火器管制装置と速射可能な5インチ砲の組み合わせは英国海軍の立会人に大きな印象を与え、英国海軍省(British Admiralty)は更に82基のMk37システムを発注したのである。不幸にも1942年から44年にかけての米海軍の急速な兵力増強によって英国海軍への供与が不可能になり、英国海軍は戦争が終わるまで追加発注したMk37を装備する事が出来なかった。

戦争が終わった後、戦艦ヴァンガードと空母イーグル、アークロイヤル、そして最後の8隻のバトル級駆逐艦にはMk37火器管制装置が搭載された。これらの装置は、アメリカとイギリスの兵装の違いを調整する為に、距離維持装置(rangekeeper、高射盤のことか)の更新を行っている。こうした戦後の装置はイギリスのタイプ275レーダーシステムが装備されたが重量はHACSよりも重く、戦艦アンソンに搭載されたMk4HACSの重量は12.5tに対して、戦艦ヴァンガードに搭載されたMk37の重さは16.5tだった。

Mk37は第二次世界大戦中の最優秀高射砲用指揮装置であり、英国海軍はHACSシステムをMk37に更新しようと考えていた。更なるMk37火器管制装置に関する情報は、Mk1/Mk1A火器管制計算機の技術記述(the Technical Board essays on the Mark 1/Mark 1A Fire Control Computers)を参照して欲しい。

学術的なメモ:指示器自身の実際の旋回から遠隔操作されるという意味で、厳密にはMk37は高射機というよりも火器管制システムである。(?)






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