この対空火器に関する運命的になる欠陥を含む視点によって、英国海軍は第二次世界大戦の初頭において、恐らく主要海軍の中で最も対空防御が劣る状態になっていた。そうした中であっても、英国海軍の殆どの上級将校は自分達の未熟な対空システムであっても、空襲を撃退できるという高い自信を持っているのであった。この態度は、1936年にウィンストンチャーチル(当時の海軍大臣?)に対してアルフレッドE.M.チャットフィールド海軍大将(First Sea Lord Admiral)の述べた、「例え輸送船に高射砲を搭載しても、爆撃機は高空を飛行しているので撃ち落せる可能性は相当に低い」という言葉に最も強く顕われている。
事前に危険を認識していた水平爆撃の脅威に対抗する為に、海軍本部(Admiralty)はヴィッカーズ社に対して主な艦艇である空母や巡洋艦に搭載する高角管制システム、もしくはHACS(High Angle Control System、高角管制システム、高射装置)と呼ばれる物の設計を発注した。実用に用いられた最初の機種は、Mk1HACSと呼ばれるもので、1931年に良く訓練された乗員によって操作したところ、4インチ高角砲で飛行機1機を撃墜するのに178発が必要であると見積もられていた。1932年にはそれは136発まで下がった。このシステムは開戦まで改良されつづけられ、1939年に装備されていた最新の機種はMk4HACSになっていた。このMk4を含めて全ての初期のHACSは、目標の高度、速度、航路が一定で、かつ目標の速度を正確な見積の仮定のもとで見越す(aim-off)ことによって、初めて計算が出来るというものであった。簡単に言うならば、この高射装置の設計コンセプトには水平爆撃以外のいかなる爆撃方法も対応していなかった。それに加えて、装置に固有のラグタイム(計算の遅れ)があるために、1930年後半から就役し始めた速度の更に早い飛行機に対応できなくなっていた。
この欠陥の為に、急降下爆撃と雷撃に対してのHACSの使用は、敵機が艦艇に到達する為に通過する範囲への、炸裂する砲弾による弾幕を張ることだけに限定されてしまった。弾幕を張る際には信管は1500ヤード(1370m)にセットし、管制指揮官が高射指揮装置の前方範囲照準(HA director forward area sight HADFAS)によって見越し照準(aim-off)する。このモードでは、管制指揮官は急降下爆撃機を真っ直ぐに見ながら、目標にホースで水を当てるように水平・垂直偏差ハンドルを回してゆく。このような防御方法では当然のように予期されることだが、イギリス(他の多くの国々でも同様だったが)は苦労する割には弾幕が効果が薄い事を思い知らされる。例えば、空母イラストリアスの1941年1月の砲術報告では、3000発の4.5インチHE砲弾が1門1分当り12発の割合で発射されたが、HADFASと、拡張されたHACSそのものは、急降下爆撃機に対しては全く使われることがなかった。この逸話によって、何故その時にイラストリアスと他のイギリス艦艇とが空襲によって一方的にかなりの損傷を被らされたかが判るだろう。
しかしHACSは戦争を通じて改良が続けられたが、中でも特に指揮装置の方向に自動で砲を旋回する遠隔動力管制器(RPC、remote power control)の搭載と285型レーダーの追加は大きかった。レーダーの加わった新しい機器もしくは改良機器では、正確な測距と速度計測が出来るようになり、更に重要なことには距離と速度の変化率も計算可能になったのである。戦時中に成された他の重要な改良としては、アナログ計算機とそれに接続されたジャイロスタピライザーによって構成され、速度と方向の変化率を計算可能なジャイロ加速度ユニット(GRU、gyro rate units、rate gyroは角速度センサ)とジャイロ加速度ユニットボックス(GRUB、gyro rate units box)の装備がある。これらの追加装備のおかげで、観測角と目標の対地速度を直接に高射盤(HA table、アナログコンピューター)に入力することが可能になり、攻撃機の進路の計測精度が向上したのである。しかしGRUBは風速補正の機能が無い為、指揮官は微風以上の風速の場合には計算結果に風速補正を行わなければならなかった。またGRUBは直線かつ水平飛行の目標にしか対応していなかったので、目標が小角度で上昇または下降している場合には指揮官がその動きに対応した偽の速度と方向情報を入力しなければならなかったし、指揮官は目標の進路に変化(alternation、交代)を発見したらGRUBの操作員に連絡して、GRUBの回転輪の設定を変更させなければならなかった。こうして、指揮官のこのような要素を見積もる技能が、艦船の対空防御に大きく関係することになった。
戦艦と空母は4基、殆どの巡洋艦は3基、例外的に巡洋艦オーロラとディド級(Dido class)巡洋艦は2基のHACSを搭載していた。駆逐艦に関しては、初期のバトル級がHACSを搭載していたものの、高射機(指揮装置)は簡単なものしか装備していなかった。他の駆逐艦と更に小型の艦艇はFKC(Fuze-Keeping Clock)と呼ばれる装置を装備していたが、この装置は高射盤と同じ原理を使い、高射盤(計算機)と同じように目標仮定の出来たものの、目標位置の記入(produde a plot)が出来なかった。FKCは自己完結型のユニットではなく、高角/平射両用指揮装置と組み合わされて使用された。目標位置の記入機能が無かったので、信管測合はFKC内の角速度時計(rate clock)に拠っており、FKCで未来位置を計算した。
Mk4HACSの操作
対空火器管制は高度に訓練された操作員と特殊な機器が必要である。(図1参照)
高射機の操作員(図2参照)は高射指揮システムの主要な要員である。旋回手と仰角手(layer、高度のことか?)とがジャイロ補正の無い望遠鏡を割り当てられている。この2人によって高射機(指揮装置)の仰角と旋回(setting and training ?)の情報が高射盤(アナログ計算機)へと伝達される。旋回は水圧で行われ、故障した際には回転把で行われる。仰角は回転把で行われるが、高度修正器(level corrector??)からの水圧駆動によって補助される。高度測定器(hight finder)は仰角手(the layer)から独立して動作するようになっている(?)。管制指揮官は旋回手と仰角手によって目標を維持させられる。指揮官の双眼鏡には目盛が刻まれ(graticle、=reticle、レチクル、光学器械の焦点面に置き、視野像と重なって観察者に見える目盛、指針、表示その他のパタン)、指揮官は目標の飛行機の胴体とこの目盛とが一直線にならぶようにしなければならなかった。指揮官はまた目標の速度を見積もった。高射機の情報は全て自動的に高射盤へ伝達された。
高射機からの情報を基にして、高射盤では目標の現在位置が決定され、目標の未来位置は偏差スクリーン(Deflection Screen、図3参照)によって決定される。偏差スクリーンでは、矢印型のポインターが付いた輪の映像がスクリーンの中央に投影される。矢印のポインターは目標の未来位置、輪は現在の位置、そして矢印の向きは目標の進路を示している。輪は視界の未来角度(future angle of sight、?仰角のことか)からの駆動によって傾けられ、スクリーン上の輪の映像は楕円形になっている。楕円形の大きさは、目標の速度を弾の速度の平均で割って計算した総量(an amount calcurated by dividing the target's speed by the average of projectile velocity、目標までの到達時間?)を表す大きさになるように、投影装置の移動によって調節される。
Mk6は275型レーダーと合体させるように完全に再設計された。この設計では、管制指揮官が一つの目標と交戦中であっても、レーダー操作員が新しい目標を追跡可能になった。この装置によってレーダーによる盲射撃の能力が限界まで向上した。しかし高射盤は以前のままだったので、メーター類の追従操作の煩雑さ(tachymetric fittings)という問題が残っていた。ただ唯一、戦艦アンソンだけが終戦までにMk6を搭載したものの、巡洋艦オンタリオとスパーブ(Ontario and Superb)、そしてバトル級の最初の8隻の駆逐艦はFKC(信管固定時計?)を使った古いバージョンを搭載していたのである。
(2)補助防空将校(Assistant Air Defence Officer)
438.防空将校を補助し、防空指揮所にある防空将校の反対側の望遠鏡を操作する。
(3)長距離警戒レーダー操作員(The Long Range Warning Rader Set Operator)
439.このレーダーは長距離を飛行中の単機もしくは編隊の飛行機を捕らえるよう設計されている。受信した情報は情報管理センター(Action Information Center)に送られ、更にそこから防空将校へと伝えられる。
(4)対空見張員(The Air Lookouts)
440.彼らはチームの中でも最も重要なメンバーである。全部で6名で、片弦に3人づつで防空将校の両側にある特別な対空見張席に座り、専用の双眼鏡で見張りを行う。それぞれの見張員は自分の受け持ちの範囲を持つ。範囲内を双眼鏡で監視し、飛行機を発見し次第報告をする。一度敵機を発見したら、見張員は防空将校から更なる命令を受けるまで双眼鏡で追いつづける。
(5)高角管制将校(The High Angle Control Officer)
441.高射機に座り、防空将校から指示された交戦すべき敵機を照準し、射撃に必要な命令を計算部署に送り、その後に敵機に射撃を集中する。
(6)高射機操作員(The High Angle Director's Crew)
442.旋回手と仰角手が敵機を連続的に測距儀で追い続けるが、仰角手は測距儀の角度を操作し、視界に捕らえたら足でペダルを踏む。これによって計算室と対空指揮所にあるランプが点灯し、仰角手が目標を捕らえたことを知らせる。高射機の仰角手はまた発射ベルが鳴っている間、トリガーによって電気的に発砲を行う。
(7)測距用レーダー操作員(The Radar Ranging Set Operators)
443.測距用レーダーのアンテナは高射機に装着されており、高射機が旋回手と仰角手によって動かされるのと連動する。アンテナは連続して敵に指向され、レーダーからの測距情報はレーダー測距パネル操作員からHACSへと伝達される。
(8)高射盤の操作員(The Crew in the High Angle Calculating Position)
444.高射盤の操作員は敵機の予想進路と予想速度を管制指揮官から連絡を受け、この情報から測量された距離と目標に指向した高射機の動きによって、砲の仰角、旋回角、そして信管番号が計算される。高射盤はまたある一定間隔で自動的に発射ベルを鳴らす。この発射ベルによって仰角手へいつ発射するかを連絡する。
英国海軍にも供給された、同時代のアメリカのMk37火器管制装置の説明無しではHACSの分析は終われない。イギリスではこれらの水平/高角システムと呼んでいるが、これは対艦対空の両方を意図して設計されているからである。このシステムが初めて紹介されたのは1939年の米国海軍駆逐艦シムス(Sims、DD-409)に搭載されていたもので、アメリカで建造中の全ての駆逐艦と、それ以上の大きさの艦艇に簡単に搭載可能なものであった。それまでのアメリカの高射機と違っているのは、射程保持器(rangekeeper、アナログコンピューター)を持ち、それをデッキの下に垂直安定に設置し、高射機そのものの大きさと重量を抑えている点である。このシステムの重要な特長は、対空用時限信管が装弾器で自動的にセットされる事であり、これによって信管測合の際の人為的ミスを無くす事が出来る上に、信管測合手の作業速度に高角砲の発射速度が影響される事が無くなり、高角砲の発射速度を向上させることが出来た事である。ノーマンフリードマン(Norman Friedman)著の「米国海軍の兵器」によれば、米海軍装備局(BuOrd、Bureau of Ordnance 、the U.S. Navy's organization responsible for the procurement, storage, and deployment of all naval ordnance, between the years 1862 and 1959.)の記録にもはっきりと書かれていないものの、Mk37の開発時の重要項目はシステムの遠隔部とのデータの自動伝達に関する信頼性の確保と、5インチ砲へのRPC(遠隔動力操作)の装備であった。装備局の記録ではMk37はレーダーを使い始める意図のあった最初の高射機であり、その為に高射機の屋根が平らになるように特に設計されている。
Mk37は第二次世界大戦中の最優秀高射砲用指揮装置であり、英国海軍はHACSシステムをMk37に更新しようと考えていた。更なるMk37火器管制装置に関する情報は、Mk1/Mk1A火器管制計算機の技術記述(the Technical Board essays on the Mark 1/Mark 1A Fire Control Computers)を参照して欲しい。