食い倒れ帳

シンシュー昆虫記


蕎麦、お焼き、りんごに馬肉。そうした信州名物の中で忘れてはならないのに、イナゴの佃煮、蜂の子、蚕の蛹などの「昆虫」がある。

別に、信州だけで食われていたものではない。昔は、どこの山村でも貴重な蛋白源として食べられていたのであり、実際うちの田舎でも、蜂の子やイナゴは食べていたそうである。
しかし、食べ物の豊富になった現代、こう言ったものは段々と食べられなくなり、若い人達にとってはゲテモノのようにさえ扱われさえしている。そこでこれを逆手に取って名物として売り出しているのが、観光資源に乏しい信州なのである。

下北沢の郷土料理屋などでもこうした料理を出しているところもあったが、初めて口にしたのは長野の居酒屋であった。
信州城攻めツアーの1日目の夜、3人で居酒屋に飲みに入って、メニューに「イナゴの佃煮」と「蜂の子」があるのに気がついた。3人して「これはいい」と、馬刺や蕎麦がきと共に注文する。
まずイナゴの佃煮が出てくる。醤油で黒くなってはいるが、確かにバッタの親戚である。あの足を見ていると、ついついゴキブリに連想がいってしまうので、蝦の空揚げか何かだと考えて口に入れる。
それなりに美味い。本当に蝦という感じである。

次に蜂の子。蛆虫のようなものかと思ったら、大分成虫に近い状態のものが出てきた。蛆虫のような完全な幼虫が出てきたら、食うのに困るだろうなと思っていたので、すんなりと手をつけることができた。
ちょっと甘みのある、底々の味。
ただどちらも値段が高いから、こういうことでもない限りもう二度と食うこともないだろう。


それからしばらくして、知合いから信州土産だと言って、蚕の蛹の缶詰を貰う。
缶を開けてみると、確かに見なれた蛹がぎっしりと詰まっている。
これはさすがに引いた。本当に蛹である。
が、しばらく躊躇しながらも、箸をつけた。
…まずい。

外はパリっと香ばしくて良いのだが、中に変に臭いどろっとしていて、その臭さが延々と後に残るのである。 といって、残すの何だったので、無理して半分ほど平らげたが、しかし臭さで気分が悪くなって吐きそうになったので、そこで止めて捨てることにする。

恐らく養蚕で糸を取った後の蛹を、貴重な蛋白源として食べていたのだろうけど、あれはちょっと。それとも調理法方が悪かったからなのか。
まあ、もう二度と食うことはないだろうけど。


しかし、信州名物って、蕎麦にしてもお焼きにしても、米を食い潰さない為の代用食だったわけで。それに昆虫。それが今じゃ…。甲州のほうとうも同じなんだけど。




目次へ