食い倒れ帳

噛まずに食え 流動食考

夏の終わりに、以前から気になりかけていた親知らずを抜歯した。一本づつ抜けば、普通に通院しながら出来るそうだが、入院して全身麻酔をかけて一気に4本抜くという選択肢もあることを聞き、珍しい事の好きな自分としては、迷わず入院・全身麻酔の方を選択したのである。

手術の事はここでは置いておいておくが、手術後、歯痛と縫糸の為に、物を噛もうとするととにかく痛い。その為に抜糸までの10日間ほど流動食しか食うことが出来なかったのである。
ところが、手術で衰えた体力の回復の為にも栄養のあるものを摂らなければならない。しかし、貧乏なのであまり金をかけるわけにもいかない。そこで、いざ条件に合う流動食を一般食品の中に探そうとすると、意外と少なかったりするのである。
とにかく、色々と工夫をしたり我慢をしたりしながら、痛さと満たされない食欲とで気の狂いそうな10日間を過ごしたのであるが、ここでは、その10日間でお世話になった代表的な食品を振り返り、流動食になりそうな一般食品には何があるのかを見ていきたいと思う。


○液体カロリーメイト NEW&コーヒー味
カロリーメイトの発売は10数年前に遡る。その当時からすでにゲテモノ扱いされていた。とにかく味わって飲むものではないほどに、まずい。現在は2種類の味があるみたいだが、飲み比べてみたところあまり味が変わらなかった。
飲むと口に広がる、豆乳とコーヒーと種々の食品が交じり合った、説明に苦労する濃厚な味。一体誰が飲むのだろうと、ずっと存在意義を問って来てた謎の飲み物だったが、しかし今回こういう状態になって初めてその存在意義がわかったのである。
一缶200kcalの高カロリー、漏れなく揃った各種栄養素、とりあえずこれだけ飲んでいれば栄養が偏ることが無いのである。他の流動食が手に入らなかった時には、液体カロリーメイトと栄養剤を飲んで食事を済ませたことも幾度かあった。
とにかく手軽に飲むだけで生きるのに必要な栄養が補給可能。正にKing Of 流動食とでもいうべきものになる事は、疑いの無い事実であろう。ただ、いかんせん、かなりまずい。


○ヴィダーインゼリー(もしくはその類似品)
基本的コンセプトはカロリーメイトと一緒だが、こっちはゼリーに栄養を溶かしこんでおり、味はこちらの方が数段良い。
ただ問題は、単位カロリー当りの値段がカロリーメイトより高い事。金をケチった為、あまり量が買えず昼飯に2,3回食べただけだった。
出来る事なら、1食分がもうちょっと高カロリーで3個で1日の必要栄養素を全て満足できるような製品を作って欲しいものであるが、ダイエット全盛のこの世の中、富栄養化への変化はありえないのだろう。


○ヨーグルト
ナチュレなどのヨーグルトを買ってきて、付属の砂糖を混ぜて朝飯に食べていた。カロリーと蛋白質は摂れそうだが他の栄養素が余り無さそうなのと、食べ過ぎるとお腹の調子を崩してしまうのが欠点である。値段も安くて手頃。ただ、何度も食べると飽きてくるので、砂糖の代わりにいろいろな果実のジャムでも入れて食べるというのも手である。


○粥
流動食と言うと粥、というくらいにメジャーであるが、炭水化物がメインなので、これだけでは栄養が偏ってしまう。その為、他に野菜ジュースやカロリーメイトなどを飲んで足りない栄養素を補ってやらなければならない。
しかし、ご飯がベースなので味は質素で飽き難い。他の流動食に飽きてナーバスになっていた時に、粥を作って海苔の佃煮を落として食べたところ、思わず泣いてしまいそうになったものである。
ただ、レトルトで売っている物は結構値段も高く、またご飯を買ってきて粥を作るには時間がかかるため、10日間で3回しか食べる機会が無かった。高々ご飯なのだから、もうちょっと安く作ってもらえないだろうか。全国100万人の流動食ファンの為にも。


○豆腐・豆乳
粥の次ぎに挙げられる事が多い、代表的和風流動食。味も栄養も良く、普通に食べるのだったら食べ方も色々あって申し分無いのだが、味の薄い流動食としての食べようとすると「冷奴」か「湯豆腐」に限られてしまう為、すぐに飽きて止めてしまった。まだ紀文の豆乳を数種類買ってきて交互に飲んだほうがまだ良かったかもしれない。
しかし、冷奴と湯豆腐の他に流動食的食べ方は無いもんだろうか。


○プリン
元々甘いものが好きなので、「(普段は体重制限で食えないが)堂々とプリンが食えるじゃないか」と喜んだのもつかの間、すぐに飽きてしまう。それはそうである。甘いものなんて偶に食うから美味いのであって、毎食毎食プリンを食っていたら、それは飽きてしまう。また、量の割に値段が高いと言う問題もあって、10日間で2度しか食べる事が無かった。
療養にかこつけて、バケツプリンでも作って1日かけて食べると言うのも面白かったかもしれないが、多分余計に体調を崩していただろう。


○リポビタンD
体調不良で口内炎を起していたので、1日に2,3本飲んでいた。明らかに用法に違反しているのだが、しかし倒れる事も無かったので大丈夫だったようである。
この手の栄養剤は値段がピンからキリまでいろいろとあるが、どのくらいのものが一番コストパフォーマンスが高いのだろうか?。いつも購入時に悩んでしまう。共通な基準を作って欲しいものである。


○フレンチホットケーキ
盆休みに行ったN浦の家で読んだ「美味しんぼ」51巻辺りに載っていた。要はホットケーキで作るフレンチトースト。普通のパンですら「硬くて」食べるのが辛いという状態で、しかもカロリーメイトにも飽きてしまい、「他に何か噛まずに食えるものは無いか」と考えていた末に、このメニューを思いだした。多めに卵汁を染み込ませてぐちょぐちょにしてやれば、あまり噛まずに食えるのではないかと閃いて試してみることに。
結果としては、染み込ませ方が足らずに、噛まずに食えるものにはならなかったが、久しぶりの違った味に、本の一瞬でも歯痛を忘れる事ができた。問題は、市販の冷凍ホットケーキを使うと、あまりにも甘くなりすぎてしまうということくらいだろうか。


○チーズ蒸しケーキ、バームクーヘン+牛乳
お菓子系の菓子パンも重宝した。ちょっとづつ口に入れては、牛乳などの液体でふやかして飲みこんでいた。食いやすさから言うとバームクーヘンが一番だったようである。ただ、これも甘いものの宿命で、あまり多用しているとすぐに飽きてしまう。会社での昼飯には、こう言うものばかり食っていた。


○鍋焼き(煮込み)うどん
風邪を引いたらバナナか鍋焼きうどんか、というくらいのメジャーな療養食である鍋焼きうどん。
そのままでは噛まずに食えないが、うどんをぐちゅぐちゅになるまで煮こんでしまえば、噛まずに食えるのではないかと試してみる。
しかし、かなり時間をかけて煮込んだもののあまり軟らかくならず、噛まずにはとても食えたものではなく、おかげで食べ切るのにえらく難渋した。流動食としては失格のようである。


○バナナ
病気と言えばバナナ、バナナと言えば病気というくらい、病気の時に食べるものの代表的存在であるが、しかしその実は思ったよりも固い上に灰汁が強い。ほとんど咀嚼できず、灰汁が口内炎にしみて痛かった。
一本だけ、かなり熟すまで待って食べてみたが、あまり変わらず。せめてジューサーでもあればジュースにして飲めるのだが、一人暮らしなのでそれも無理である。


○野菜ジュース
単体では栄養吸収率が悪くて、思ったほど栄養が摂れないことはあるある大辞典などからの知識で知ってはいたが、しかし噛めないとなるとこれに頼らざるを得なかった。
ミックス野菜の野菜100%ものを山と買ってきて、カロリーメイトの口直しに飲んでいた。どこまで効いていたのか分からないが、多少は効いていたような気もする。
出来る事なら、野菜スープのジュースをシリーズ化してくれると、普段にも補助食として飲めるので便利なのだが。


○卵
栄養豊富と言うイメージもあるので、買っておいては粥やうどん、スープなどに入れてみた。しかし熱を通すと固まってしまう為、下手にいれすぎると噛まないと食べられなくなった。結局は生で飲むかミルクセーキでも作って飲むのが一番良かったかもしれない。卵豆腐は、出汁が口内炎に染みて、上手く味わえなかった。


○ワカメスープ
偶々近所のスーパーで安売りをしていたので買ってくる。スープと言うのは、比較的栄養もしっかりと入っていて滋養を摂るには良いものなのだが、このスープにはワカメが入っているため噛まなければならず、えらく食い難い代物になってしまった。


○コーンスープ
粉末のカップスープを買ってきた。これは問題無いかと思ったら、クルトンが入っていた。普段はあまりの量の少なさに憮然とするクルトンだが、今回ばかりは邪魔物以外の何物でもなかった。また、コーンの缶詰(クリーム)を買ってきて、それとこれとを混ぜてお粥みたいなものを作ってみたが、返ってまずくなったりした。


○粉末ポテト
粥ばかりでは飽きるだろうと、粉末ポテトを買ってみる。
お湯でもどすとマッシュポテトになるやつで、これならさすがに噛まずに食えるのではと思ったものの、味が単調で数口で飽きてしまい、後はひたすら地獄のような残食の処理になってしまう。
二回目には上記コーンスープを混ぜて水分を多くして、コーンポタージュスープのようにしてみたが、それもすぐに飽きてしまう。今思うとじゃが芋のパンケーキでも作って食べていた方がよっぽど美味しく食べれたかもしれない。


まさかこの歳で、物を噛めない苦しさを味わうとは思わなかった。そうした体験から見てみると、これからの高齢化社会、噛まずに食える美味しい流動食の開発と言うのは、結構な金になるかもしれないと思う今日この頃である。
健康に、乾杯。




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