食い倒れ帳

オートミール十番勝負




ちょっと長めのプロローグ


oatmeal:@ひき割オート麦Aひき割オート麦に牛乳と砂糖を入れて食べる。(=porridge)
porridge:@ポリッジ。オートミールに牛乳または水を入れて作った粥;英国人は朝食に良く食べる。
研究社:新英和辞典より


この世の中にオートミールというものがある。日本人なら、納豆と一緒で死ぬまで食わなくても別に困るものでもない。しかし本場英国では良く食べられているものらしく、向うの映画や小説などにはよく出てくる。漫画でも浦沢直樹の「パイナップルアーミー」には、ニューヨークからロンドンに出張中の主人公がホテルの朝食を前にして、「いいかげん、このオートミールにも飽きたな」とアメリカへ帰りたい旨をぼやいているシーンがある。
こういう作品中に知らない食品が出てきても、「オートミール…?何のこっちゃ」と読み飛ばしてしまうのが普通なのだろうが、自分は母親譲りの新し物、変わり物好きなので、気になって仕方が無い。だから、余程手の届かないものでない限り、必ず試してみているのである。
オートミールも例外でなく、初めて食べたてみたのは中学校に入ったころであった。当時読んだ何かの本でオートミールの存在を知り、遂に母親にせがんで作ってもらった。ドキドキしながらスプーンを取ったのだが、これが何とまずかった。「牛乳や砂糖を入れるとさらに美味しい」と箱に書いてあるので試してみるが、更に食いづらくなった。頼んで作ってもらったその一皿は、さすがに無理をして残さず食べたのであるが、残りのオートミールの箱がどこに行ったかは記憶が無い。恐らく母親が捨ててしまったのだろう。
オートミールが想像したほど美味しくなかったという事実は、それからもずっと気にかかっていた。本の中ではさも美味しそうに食べられているオートミールが、美味しく無い筈は無い。箱に書かれている方法以外に、何か他に美味しい食べ方があるに違いないのではないかとも思った。当時としては英国人の味覚構造が東洋人と根本的に違うということも知らなかったので、仕方が無いと言えば仕方が無かった。

それから大学に進学して一人暮らしの身となり、自炊を始めてしばらく経った後、二回目ののアタックをかける事にした。その頃読んでいたロシア小説の中で、このオートミールが「大麦の粥」と訳されていたのを読んで閃いたのである。「そうだ、粥なのだ。粥の中に牛乳や砂糖を入れて美味しい筈が無い。米の粥の様に塩味で行くのが正攻法に違いない。」そこで一箱分を、塩の分量を少しずつ変えながら試してみたのである。結果から言うと、以前の牛乳・砂糖入りよりかは幾分ましな味になったのだが、それでもやっぱり美味しいとは言えないものであることには変わり無かった。
しかし、それでも諦め切れずに数年が経ち、つい先日にふと、豆乳スープ風にオートミールを仕上げてみたらどうだろうと閃いた。そこで今回、良い機会でもあるので、三度目の正直として、最後のアタックをかける事にすることにしたのである。一箱で10食分あるから、10通りの色々な調理方法でオートミールを攻めて、今度こそオートミールの真の美味しさを引き出すのである。名づけて「オートミール十番勝負」。今ここにその幕が開くのである。







一番勝負:中華風豆乳オートミール

中国では、朝食に揚げパン(油条)と豆乳スープを摂る事が多い。10数年前に武田鉄也も美味しそうに頬張っていたこの朝食は長い間の憧れで、つい最近に自ら豆乳スープを作ってその夢をかなえたばかりである。そこで同じ朝食として、豆乳スープでオートミールを煮込めば、少なくとも牛乳なんかを入れるよりかは益しなのではないかと閃き、早速作ってみる事にしたのである。

レシピ
@鍋に200ccの豆乳(成分無調整)と、小匙2杯の中華スープの素を入れてひと煮立ちさせる。
Aオートミール30g(カップ1/2)を入れて3分ほど煮こむ。
B火を止めて蓋をし、3分ほど蒸らす。

結果
初めの2,3口はなかなかに美味しかったのだが、そのうちにだんだんと飽きて来た。後半に入ってからは、拷問に近いものがあった。成功とは言いがたい。




二番勝負:鹿の子オートミール



以前買っていた蕎麦粉で蕎麦善哉を作ろうとしていたときに、同じ雑穀ならオートミールと小豆餡も遭うのではないかと閃く。現にアンパンやアンマンもある事だ。そういうことで小豆餡を少し余らせておき、翌日に早速これを試してみる事にする。

レシピ
@オートミールを作る(上記の豆乳スープと中華スープの素の代りに、水200ccと塩少々を入れれば、スタンダードなオートミールができる)。
A蒸らしたオートミールに小豆餡を載せる。食べる時には適時混ぜて食べる。

結果
結構いけた。流石に善哉のような感動は無いが、あのオートミールがこれほど美味しく感じられる事は奇跡かもしれない。まったくもって小豆餡は偉大である。
大きな欠点があるとすれば、小豆餡が駄目な人には勧められない事くらいだろう。




三番勝負:薩摩芋オートミール



薩摩芋というのは美味しいものである。焼き芋、天麸羅、煮物、ふかし芋、芋金鍔、芋羊羹、そして大学芋。甘味が強いのでじゃがいもよりも調理法が限られてしまうが、しかしその甘味こそが薩摩芋の華である。その他にも芋粥というのもある。小さく刻んだ薩摩芋が粥に入れられているのだが、この場合は薩摩芋は具というよりも調味料となる。淡い味の米の粥に薩摩芋の甘味が合い、何杯でもお代りできてしまう。
と、そんなことをスーパーの野菜売場で、一本88円の薩摩芋を眺めながら考えていた。そしてふと、オートミールも粥と言えば粥だなぁと、薩摩芋一本を持ってレジへと並んだのである。

レシピ
細かく刻んだ薩摩芋を水に晒して灰水を抜き、500ccの水で煮る。火が通ったら、30g(カップ1/2)のオートミールと塩少々を入れて3分煮込み、火から下ろして蓋をして3分蒸らす。

結果
薩摩芋はやっぱり美味しい。ホクホクで、これに控え目の塩が、芋の甘味を更に増してくれる。いっそのことオートミールなんか入れなかった方が美味しかったかも知れない。そう考えると、美味しいことは美味しかったけど、オートミールの食べ方としては邪道なのかもしれない。



四番勝負:醤油オートミール



明石屋マンション物語のコーナーで、とあるプロゴルファーの投稿として紹介されていた。さんまのコメントとしては「まあこんなもんでしょう」という評価であったが、究極のオートミールを追求している身としては無視できない。早速試してみた。

レシピ
標準のオートミールを作る。それに醤油を適量、かけまわして混ぜる。

結果
まあこんなもんでしょう(笑)。本当なら鰹節でも加えた方が面白かったかも知れない。



五番勝負:海苔オートミール



どこぞのゲテモノ食品関係のホームページを読んでいる時に、「オートミールって粥みたいなものだから、佃煮海苔なんかも合うだろうね」という記述を読んだ。以前に親不知を抜いた時に海苔粥には世話にもなっているので、これまた試してみることにする。

レシピ
標準のオートミールを作る。それに佃煮海苔を好みの量だけ落とす。

結果
やはり佃煮海苔は美味しい。しかし、米の粥だと、もっと美味しかったのではないだろうか。そう考えるとオートミールの美味しさを引き出す食べ方とは言い難いかもしれない。



六番勝負:ヨーグルトオートミール



基本に立ち帰ってみることにする。オートミールは朝食に良く食べられる。とくれば、洋風な朝食で良く食べられいるヨーグルトとも合うのではないか。しかも原材料は一応オート「麦」。フランスパンにヨーグルトも良く合う事だし、箱書きには牛乳を加える食べ方も紹介してある。ただ、ヨーグルトまで暖かくなってしまうのが心配だが…

レシピ
標準のオートミールを作る。それに適量のヨーグルトをかける。

結果
ヨーグルトには無糖のナチュラルヨーグルトを使ったのだが、それだけだとさすがに美味しいとは言えたものではなかった。そこで付属のフルーツソース(桃)や蜂蜜などの糖分を加えてみた所、それなりに食えるものになったが、あまり美味しいものではない。結論としてはオートミールにヨーグルトなんてかけるものではないと言える。



七番勝負:鮭オートミール



鮭フレークが100円で売られていた。翌日の朝食と二回に分けて食べるに丁度良い量だったので、試してみることにする。

レシピ
標準のオートミールに、鮭フレークをかける。

結果
鮭フレークはやはり美味しい。ご飯にも合うし、粥に入れれば鮭粥。オートミールでもやはり美味しかったが、どちらかと言うと米の粥の方が断然美味いと思われる。海苔と同じ結果と言える。



八番勝負:カレーオートミール



日本人はカレーが好きである。どんな食堂のメニューにもカレーライスは存在し、蕎麦屋にすらカレーうどんなるものが存在する。またパン屋ではカレーパン、そしてお菓子でも様々なスナック類や煎餅にすらカレー味を作ってしまう。そこで今回はカレーを試してみることにする。
レシピ
水を少なめに、硬めのオートミールを作る。三分間の蒸らしの前に、チーズと温めたレトルトカレーを載せる。

結果
美味しい。やっぱりカレーは偉大だ。しかし以下同文。


九番勝負:カルボナーラオートミール



ライスグラタンというものがある。だとすればオートミールでも行ける筈。ただオーブンが使えないので、スパゲティ用のカルボナーラソースを使ってみることにした。

レシピ
硬めのオートミールを作る。三分間の蒸らしの前に、チーズと温めたレトルトソースを載せる。

結果
それなりに美味しい。色が同じなので、ソースとオートミールの混ざり具合がわからないのが難点だが、材料が麦であるだけに親和性も良く、スパゲティを作るのも面倒だな、と言う時などに丁度良いのではないだろうか。ミートソースなどでも行けるかも知れない。それから、バターを落とすのも良いかも知れない。



十番勝負:ジャムバターオートミール



漫画のドラえもんの何かの話で、恐竜を見せてやるとジャイアン達に豪語してしまったのび太が、自ら恐竜をおびき寄せる餌になる為に、体中にジャムとバターを塗りたくる場面がある。これを読んだ当時は、脂質であるバターと糖質であるジャムなんて絶対に合わないと気持ち悪く思ったものであるが、後日意を決してトーストにジャムバターを試してみるとこれが結構いけて、さすがドラえもんだと感動したことあった。そう言う事を、オートミールの新しい食べ方を考えている時にふと思い出した。パンもオートミールも麦が原料だし、と最後を記念してこれを試してみることにした。

レシピ
硬めに炊いたオートミールに、苺ジャムとバターを適量落とす。

結果
まず、熔けたバターとオートミールを混ぜて食べてみると、それなりにいけた。次にジャムとオートミールを混ぜてみると、これもそれなりにいけた。そして最後にバターとジャムとオートミールを混ぜてみたところ、これまた思ったほどまずくなかった。こりゃええ、と全部ぐちゃぐちゃにしてしまったが、食べるにつれて段々と飽きてきてしまい、残り半分は無理矢理口に押し込むことになった。
結論としては、食えないことはない…。まずくて食えないことはない…。でもジャムバターはやっぱりパンに塗るものであって、決してのび太やオートミールに塗るものではないと言うことであろうか。


総括

やっぱり米は美味しい。粥も例外ではない。それと比べるとオートミールは格段に味が落ちる。その為、幾つかの食べ方で美味しく食べられたものの、オートミール本来の美味しさを十分に引き出せたのかどうかはわからないままであった。
それを割り引いて考えるに、普通に米の粥で行なわれている食べ方は、ほとんど行けるのでないか。またそれ以外にも、小豆餡やジャムなどの甘い物とも良く合う。他にも辛いとか色々な味に合うかも知れない。
しかし10の違った方法でオートミールを食べてみて思うに、オートミールの本当の価値というのはその味ではなく、手軽に作れて値段も安く、そして保存も効くということであり、それが英国で朝食に好まれている理由なのではないか。そうだとすると、そのオートミールの本当に美味しい食べ方を探ろうとするこの企画自体間違っていたかもしれない。




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