遺伝性疾患と検査  

繁殖について スタンダード(犬種標準) 遺伝性疾患と検査

■■遺伝性疾患ってなに?■■

遺伝性疾患には、犬全体に共通のもの、犬種に特有のもの、また遺伝子が発見されている病気、形状または症状で判断するしかない病気があります。さらに生まれた時は異常がなくても、成長するにしたがって異常が出てくる病気もあります。遺伝性疾患の怖さは、症状が現れなくても、飼い主が知らないうちに遺伝子が次世代に継承されていくことです。遺伝性疾患を持たない健全な犬を将来に残すためには、繁殖を考える時に遺伝性疾患の検査を行い、遺伝性疾患のない犬だけを繁殖しなければなりません。それぞれの遺伝性疾患について、下に揚げたような現在可能なもっとも有効な方法で、遺伝性疾患の遺伝子を除外し、健全な犬種の保存につなげていきましょう。

コーギーの罹りやすい遺伝性疾患には、股関節形成不全、肘関節形成不全、若年性白内障、進行性網膜萎縮(PRA)、血友病の一種フォンウィルブラント病などがあります。アメリカでは、繁殖する牡牝双方が、股関節肘関節が正常なこと、眼に異常がないこと、フォンウィルブラント病、ブルセラ病(遺伝性疾患ではありませんが、交配による感染症で、流産を引き起こします。)に罹っていないことを検査証明書などを提示して明らかにします。甲状腺疾患、心臓疾患などの異常もなく健康であること、行動や性格に問題がないこと、クオリティーが高いことはもちろんです。

コーギーの遺伝性疾患としては更に、椎間板ヘルニア、変性脊髄症、シスチン尿症、てんかん、皮膚無力症、白内障、停留睾丸など多数があげられています。
ペンブローク ウェルシュ コーギーFAQ遺伝性疾患に詳しく記載されているので見て下さいね。

ここでは股関節形成不全をとりあげ、その検査方法について説明します。
また眼の病気と検査、フォンウィルブラント病と検査についても簡単に触れます。

■■股関節形成不全ってなに?■■

股関節形成不全(HDまたはCHDと省略されます)はラブラドールやゴールデンなどの大型犬で頻発しています。後ろ足の動きがおかしい犬を見たことがありませんか?コーギーの代表的な遺伝性疾患のひとつも股関節形成不全です。体重の少ないコーギーに目に見える症状が現れることは少ないのですが、日本のコーギーがその遺伝子をしっかり継承しているということ、みなさん、ご存じでしょうか?

  ・兄弟姉妹犬が遊んでいるのを座って見ているだけで、遊びに加わろうとしない。
  ・腰を振って歩く。
  ・散歩が嫌い。
  ・散歩の途中座り込んで休む。
  ・階段を登るのを嫌がる。
  ・うさぎ跳びのような走り方をする。
  ・びっこをひく。
  ・横座りをする。
  ・早朝や寒い日は後ろ足の動きがおかしい。
  ・股関節を触ると痛がる。
  ・前脚や肩の筋肉が発達する。
  ・腰や太ももの筋肉がやせる。
  ・後脚を後ろに伸ばすと痛がる。
  ・クリック音がする。

など、こんな症状があったらぜひレントゲン写真を撮って貰いましょう。このような症状は程度にもよりますが、股関節に違和感がある、あるいは痛みが出ていることがあります。 

股関節は骨盤と太腿をつなぐ関節で、ボール状の股関節大腿骨頭とお椀の形のような股関節寛骨臼がしっかり噛み合ってできています。股関節形成不全は股関節が成長していく途中で発生する形状の異常であり、両足に出ることが多いのですが、症状は左右で異なることがあります。レントゲン写真を撮らないと分からない軽い程度から痛みのためびっこをひくような重症まで様々な段階があるので、分からないまま一生を過ごす場合もあります。過度な運動をしたり、肥満したり、年を取って筋肉が落ちると急に悪化することもあります。軽いものは痛みをコントロールしながら幸せな犬生を過ごすことができます。重症の場合、手術が適応される場合もあります。

アジリティーやディスク競技などスポーツを始めてしばらくして股関節肘関節に異常があることを知る飼い主さんもいます。せっかく愛犬とスポーツを楽しもうと思った矢先に愛犬の遺伝的疾患を知り、一緒にスポーツをすることを諦めなくてはならないのは辛いですね。アジリティー、ディスクなどのスポーツを始める前には必ず股関節肘関節の検査を受け、異常があった場合はその犬に合った制限運動にとどめましょう。

形状の異常つまり股関節形成不全があっても痛みが出ないことがあるので、繁殖をしなくても、愛犬の健康状態を把握しておくために、また運動の適量を知るために、レントゲン写真を撮り、後述するOFA、JAHDなどの診断を受けておくと安心ですね。

股関節形成不全はなぜ多いのでしょう。犬が自然界で狩りをして生活している頃は異常があれば生きていかれず自然淘汰されてきました。ところが犬が人間に飼われるようになると、狩りをしなくても生きていかれるようになり、異常のある個体も生き延びることができるようになりました。さらに純血種の作出のため繰り返し行われる繁殖の過程で、遺伝性疾患の遺伝子が濃く受け継がれてきたものと思われます。真摯に繁殖に取り組んでいるアメリカでさえ、コーギーの股関節形成不全率は17%ですが、実際は倍くらいあると言われています。繁殖の際、股関節の検査をしてこなかった日本の場合は現在どの程度の罹患率か、考えるのも恐ろしいほどです。全てのコーギーが股関節の検査を受け、データを公開するようになれば、股関節形成不全はなくなることでしょう。

股関節形成不全は、TARO'S CONNECTIONの「股関節形成不全」、わんずているの「関節疾患について」のページに非常に詳しく掲載されています。ぜひ読んでくださいね。

遺伝子検査機関

OFA(Orthopedic Foundation for Animals、動物整形外科協会)

アメリカにはOFAという歴史と実績のある遺伝子検査機関があります。日本からの検査も可能です。繁殖する予定の犬は、2才以降、股関節肘関節のレントゲン写真を申込書、診断費用と一緒にOFAに送り、股関節に異常があるかどうかの診断をして貰います。(2才以前の予備診断もあります。)

診断が正常(エクセレント、グッド、フェア)な場合は、OFA登録番号が付与され、証明書が発行され、OFAのデータベースに公開されます。(これはAKC、JKCの血統書にも記載されます。)
異常(ボーダーライン、マイルド(軽度)、モダレート(中度)、シビア〔重度))の結果が出た場合は、証明書は発行されませんが、疾患の症状を示す診断書が送られてきます。

OFAへのレントゲン写真の送付の仕方は、犬についてのまじめなページの「OFAの私的解説ページ」に詳しく説明されています。股関節+肘関節で検査費用は35ドルととても安いですね。ただアメリカにレントゲン写真を送るための経費が掛かります。

股関節形成不全に関わる遺伝メカニズムは複雑で、複数の遺伝子が関与していると考えられています。現在はまだ遺伝子が特定されていないので、レントゲン写真を撮って診断します。OFAでは、膨大な犬種別のデータを元に、OFAの経験豊かな画像診断の専門医が3人でレントゲン写真を診断するので、信頼度が高いと言えましょう。OFA用にレントゲン写真を多数撮影してこられた日本の獣医さんの中にはある程度の診断ができる方もいらっしゃいますが、OFAの証明書を貰うことが交配の際の透明性を高めます。

さて、OFAで正常であると診断されたからといって、股関節形成不全に関わる遺伝子を持っていないという訳ではありません。股関節が正常で遺伝子を持つ犬をキャリアといいます。軽度であれ重度であれ股関節に異常があると診断された犬はもちろん股関節形成不全ですが、正常な牡牝を繁殖しても、股関節形成不全を持つ子犬が生まれることがあります。つまり、どちらか、あるいは両方ともキャリアであるということがあるのです。そのため、同胎犬全て、両親およびその同胎犬全て、祖父母およびその同胎犬全て、曾祖父母およびその同胎犬全て・・・というように血統を遡ってレントゲン写真で正常か異常かを調べて初めて、その犬がキャリアであるかノンキャリアであるかが分かります。

これまでOFAのデータベースには正常な犬だけが登録されてきました。最近異常のある犬のデータも公開されるようになりましたが、全ての犬についてキャリアであるかノンキャリアであるかを調べることができないのが現状です。またOFAの信頼度が高いとはいえ、OFAの診断で正常であってもごくまれに股関節形成不全の症状を持つ犬がいるということは、複雑な遺伝メカニズムや遺伝子が解明されていない現在、レントゲンの画像診断の限界と言えるかもしれません。それでも現在できることは、少なくとも異常のある犬を除外すること、分かっている範囲で正常度の高い血統の牡牝を繁殖していくことで遺伝性疾患の少ない健全な純血種を保存することができるのです。

OFAはある提案をしています。子犬を譲る時、保証金を預かり、子犬が股関節形成不全の検査を受けたら返金するというものです。これによって、子犬に股関節形成不全が遺伝したかどうかをブリーダーは知ることができます。これを続けていけば、将来に向かってその血統の膨大な量のデータが蓄積されていきますね。

OFAの遺伝性疾患のデータベースには股関節の他に、肘関節、膝蓋骨脱臼、心臓、甲状腺、フォンウィルブラント病、進行性網膜萎縮、聴覚障害、銅中毒、シスチン尿症、DNA異常、 ホスホフルクトキナーゼ(PFK)欠乏症、ピルビン酸キナーゼ欠乏症、 先天性夜盲症、腎臓部形成障害 などがあり、それぞれ検査が可能です。シリアスブリーダーはできうる限り遺伝性疾患の遺伝子を除外する努力をしています。

OFAのデータベース(Serch OFA Record)を見てみましょう。OFA登録番号または血統書番号、血統書登録名の一部または全部、犬種、性別、診断部位などを入力または選びます。試しにあなたの愛犬の祖父、曾祖父にアメリカチャンピオンがいたら、その名前や血統書番号などをを入れて検索してみましょう。ちなみにOFAの検査を受けて正常であった場合、血統書にはOFA○○G(股関節)とかOFEL○○(肘関節)などとOFAの登録番号が記載されています。

NPO特定法人日本動物遺伝病ネットワーク(JAHD)

股関節形成不全の診断はこれまでアメリカのOFA、PennHip、イギリスのBVA/KCに頼ってきましたが、日本にもやっと日本独自の動物の遺伝性疾患のデータベースができました。それがJAHDです。診断は1才以降で、現在は股関節形成不全、肘関節形成不全および膝蓋骨脱臼のデータベースのみですが、今後の拡充に期待しています。股関節形成不全の診断法はOFAと異なりポイント制ですが、OFAのデータと相関性がみられるので、繁殖する際の目安となりましょう。アメリカに送るより遙かに手軽に股関節肘関節形成不全の診断ができるので、繁殖を考えていなくても受けてみてはいかがでしょう。症状が全くなくても股関節形成不全などの異常が見つかれば、今後の運動方針なども立てられますね。またたくさんのデータが登録されれば、遺伝のある血統を繁殖から除くことができます。これから日本の遺伝性疾患のデータベースとして、普及していくことを大いに期待しています。

■■眼の病気は?■■

進行性網膜萎縮症(PRA)、白内障、網膜の異形成、角膜の病変、水晶体脱臼、皮様嚢腫(角膜皮嚢腫)などがコーギーに見られる遺伝性疾患ですが、股関節形成不全と同じようにその遺伝子は見つかっていません。そのため、繁殖前に眼科専門医による目視(眼底検査などいろいろ)で発症していないことを確認します。年1回の検査が推奨されており、診断項目は下のCERFのサイトに、まぶた、第三眼瞼、角膜、虹彩、レンズ、眼底などについて細かく記載されています。

登録機関

アメリカにはCERF(Canine Eye Registry Foundation,犬の眼登録協会)という眼科専門の登録機関があります。繁殖する犬は、American College of Veterinary Ophthalmologists (ACVO アメリカ獣医学眼科大学)の学位を持つ眼科専門の獣医師の診察を受け、遺伝性眼科疾患が認められない犬だけにCERFの証明書が発行され、同時にOFAのデータベースに登録することができます。有効期間は1年間。繁殖に用いる犬は少なくとも1年以内に診察を受けていなくてはいけません。繁殖をする場合は、眼科専門医に遺伝性疾患がないかどうかCERFに該当する検査をして貰いましょう。日本の場合、専門医制度をとっていませんが、獣医大学付属病院や大きな動物病院では眼科のあるところもあります。犬種クラブの中には、JCVO(Japan Canine Veterinary Opthalmologist)に所属されている眼科専門の先生による集団アイチェックを実施している団体もあるので、そういう機会を利用するのもいいでしょう。

■■フォンウィルブラント病(vWD)って?■■

あまり馴染みのない疾患名ですが、フォンウィルブラント病も遺伝性疾患で、遺伝子は特定されています。これは血液の病気で、血液凝固因子の欠損により出血が止まりにくくなります。最近コーギーのこの病気の罹患率が上がってきているので、罹患した犬を繁殖から除外することが求められています。

遺伝子検査機関

VetGen(Veterinary Genetics Services、動物遺伝子サービス)ではフォンウィルブラント病の遺伝子検査を行っており、結果をOFAのデータベースに登録できます。手順は簡単で、日本からも検査が可能です。Pricing & Orderingページから申込書をダウンロードし必要事項を記入して、郵送かファックスで送ります。DNAサンプルコレクションキットが送られてくるので、口の中の頬の内側をスワッブ(キットのブラシ)でこすり細胞を採取し、封筒に入れ郵送します。費用はvWDDNA検査140ドル、vWDDNA検査+DNAプロファイル170ドルとちょっと高めですね。検査期間は2週間ほど。結果がOFA用の登録フォームと一緒に返送されてきます。ここではDNA保存サービスも提供しています。

以上のような遺伝性疾患の情報を知ることによって、「愛犬の子犬が見たい」という安易な思いでの素人繁殖がどんなに危険なことか、たくさんの方に知って頂きたいと思います。また犬を新たに迎えようとする一般の飼い主の知識と意識が向上することが、健全な犬種の保存と向上に役立つのです。

遺伝性疾患を受け継いだ犬を繁殖するのはやめましょう。

このページは、ペンブローク ウェルシュ コーギーFAQ遺伝性疾患TARO'S CONNECTION犬についてのまじめなページわんずているOFAJAHDCERFVetGenの各サイト、愛犬の病気百科(誠文堂新光社発行)を参考にまとめました。

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